問題提起:
保育士資格を取得する人は毎年多くいますが、その中で実際に保育園で働く人の割合は少なく、資格を持ちながら働かない人が多い現状があります。なぜこのようなギャップが生じるのでしょうか?
記事を読んでわかること:
この記事では、保育士資格取得者が保育園で働かない理由を統計データや具体的な事例を交えて解説します。さらに、その背景にある問題や課題、そして改善策や今後の展望についても詳しく掘り下げます。
記事を読むメリット:
この記事を読むことで、保育士資格取得者が直面する現状や問題点を理解し、保育士として働くことの意義や重要性を再確認できます。また、より良い保育環境を実現するための具体的な改善策を知ることができます。
はじめに
保育士資格の取得者数と実際に保育園で働く人の割合
保育士資格を取得する人は毎年多くいます。しかし、その中で実際に保育園で働く人の割合は意外と少ないです。例えば、ある統計によると、資格を取得した人のうち約30%が保育園で働いていないと言われています。このギャップはなぜ生じるのでしょうか?
本記事の目的と重要性
本記事では、保育士資格を取得したにもかかわらず保育園で働かない理由を探り、その背景にある問題や課題を明らかにします。そして、改善策や今後の展望についても考えていきます。これにより、保育士として働くことの意義や重要性について再確認し、より良い保育環境の実現を目指します。
資格取得後の現状
保育士資格を取得した人の統計データ
毎年多くの人が保育士資格を取得しています。例えば、2020年度には約5万人が新たに保育士資格を取得しました。しかし、その中で実際に保育園で働く人の数は約3万人にとどまっています。直近ではこども家庭庁の「保育士試験の実施状況(令和4年度)」によると、令和4年度の受験申請者数79,378人で、その内合格者数は 23,758人にのぼります。こちらは、保育園での就業状況は明らかになっていませんが、毎年これだけの合格者が居ながら、依然保育士の人材不足が叫ばれている状況を鑑みると、資格を取っても保育園で働かない人が一定数いることがわかります。
保育園で働かない理由の概要
保育士資格を持ちながら、保育園での就業経験がない方の、働かない理由は多岐にわたります。東京都のみのデータとはなりますが、直近の東京都福祉局の「令和4年度東京都保育士実態調査結果」によると、保育士有資格者全体の25.9%が保育士の就業経験がないと答えています。主な理由としては、「幼稚園での勤務を希望した」が2割(20.9%)を超え、僅差で「希望する給与等待遇の求人がなかった」と「別の職種を希望した」続いています。また「資格取得が目的で初めから保育士として働く意思はなかった」と「勤務日数・時間が合致する求人がなかった」が15%弱を占める結果となっています。
主な理由とその背景
保育園での就業をそもそも目的としていない
前述した理由の中で、
・幼稚園での勤務を希望した
・別の職種を希望した
・資格取得が目的で初めから保育士として働く意思はなかった
これらの理由から垣間見れる背景としては、保育士を第1志望の職業としていない事があげられるという事です。特に「幼稚園での勤務を希望した」と「資格取得が目的で初めから保育士として働く意思はなかった」は連動するところも多く、学習の中で保育士を取得するチャンスがあったため、資格を取得しようという方も多くいることが分かります。
一方で、「別の職種を希望した」という方は、就職活動の中で他の業界、他の業種に興味を持つきっかけがあった可能性があると推測されます。
保育士の労働環境に対する不安
・希望する給与等待遇の求人がなかった
・勤務日数・時間が合致する求人がなかった
これらの理由から、保育業界の以下の点が就業に至らなかった理由であると考えられます。
給与の低さと労働条件の厳しさ
保育士の給与は、他の職種と比べて低いことが多いです。例えば、保育士の平均年収は約300万円程度ですが、これは同年代の他職種と比べて低い水準です。また、昇給やボーナスも少ないため、経済的な理由で保育園での仕事を諦める人が多いです。
長時間労働と過労の実態
保育園は早朝から夜遅くまで開園しているため、長時間労働やシフト勤務が必要になります。そのため、不規則な勤務体系となる事が、敬遠される要因となります。また、休憩時間も十分に取れないことが多く、過労になるリスクが高いです。このような厳しい労働条件も、保育士として働くことを躊躇させる要因となっています。
保育士の家庭事情と両立の難しさ
保育士の仕事は時間が不規則であり、家庭との両立が難しいことがあります。特に子育て中の保育士は、自分の子どもの世話と仕事の両立が難しく、結果的に離職するケースも多いです。
その他の考えられる要因
調査結果では大きな懸念点としてはされていませんでしたが、以下のような保育園のイメージが、就業前から複合的に相まって、保育園での就職を敬遠する要因になると考えられます。
人間関係や職場環境の問題
保育園では、同僚や保護者との人間関係が重要です。しかし、職場内での人間関係のトラブルや、保護者とのコミュニケーションの難しさがストレスの原因となることがあります。これが原因で退職する保育士も少なくありません。
職場の雰囲気とストレス要因
保育園の職場環境は、多忙でストレスが多いことが一般的です。忙しさや責任の重さに加え、同僚との摩擦や保護者からのクレームなどが重なり、精神的な負担が大きくなります。
理想と現実のギャップ
保育士の仕事には、子どもたちとの楽しい時間を過ごすことを期待する人が多いですが、実際には事務作業や準備、清掃などの雑務も多く含まれます。この理想と現実のギャップが、保育士として働くことに対する不満を生むことがあります。
仕事内容の詳細と負担
保育士の仕事内容は多岐にわたり、体力的にも精神的にも大きな負担がかかります。子どもたちの安全を守りながら、教育活動や遊びの計画、保護者との連絡など、多忙な毎日を過ごすことになります。
キャリアアップの機会の不足
保育士にはキャリアアップの機会が少ないことも問題です。管理職への昇進や専門性を高める研修制度が不足しているため、将来のキャリアに不安を感じる人が多いです。
将来の不安と転職の実態
保育士の将来に対する不安や、他の職業への転職を考える人が多いです。特に、給与や労働条件の改善が見込めないと感じる人は、他の職種への転職を選ぶ傾向があります。
資格を取ったものの他の職業を選ぶ理由
他職種の魅力と比較
他の職種と比較すると、給与や待遇が良い職業が多いです。例えば、事務職や販売職などは保育士よりも高い給与を得られることが多く、これが他職種を選ぶ理由の一つです。また他職種は、保育士と比べて仕事内容が安定しており、勤務時間も固定で働きやすい環境が整っています。定時に帰れる仕事や、週末が休みの仕事が多いことも魅力です。
資格を生かした別の職業
保育士資格を生かして、幼児教育関連の職業に就く人もいます。例えば、幼児教室の講師やベビーシッター、児童館のスタッフなどが挙げられます。子どもと関われる仕事でかつ、労働時間や休みがとりやすい環境は魅力的に映る事でしょう。また保育関連の企業やNPOで働くことで、保育士資格を生かすことも可能です。これらの職場では、保育士の専門知識や経験を活かしつつ、保育業界に貢献できる仕事です。その上で保育園とは異なる環境で働けることに魅力を感じる方も多いでしょう。
改善策と今後の展望
保育士の待遇改善の必要性
保育士の待遇改善は、急務です。給与の引き上げや労働条件の見直し、補助金制度の拡充などが必要です。保育園の中でも特に認可保育園は国からのお金で運営費の大半をカバーしています。給与をあげる、労働条件を見直すにしても、政府や自治体は、この問題に対して積極的に取り組むべきです。
職場環境の改善
ハラスメント対策とメンタルヘルスケア
職場のハラスメント対策やメンタルヘルスケアの充実が求められます。これにより、保育士の精神的な負担を軽減し、働きやすい環境を整えることができます。
チームビルディングとコミュニケーションの向上
職場内のチームビルディングやコミュニケーションの向上も重要です。これにより、職場の雰囲気が良くなり、人間関係のトラブルを減らすことができます。
キャリア支援とスキルアップの機会
保育士のスキルアップのための研修制度を充実させることが必要です。これにより、保育士としての専門性を高め、キャリアアップの機会を増やすことができます。また保育士のキャリアパスを多様化することも重要です。例えば、管理職や専門職への昇進の機会を増やすことで、将来のキャリアに対する不安を解消できます。
以上のような事は一般企業では既に多くの会社が取り組んできていることですが、まだまだ未整備な保育園などでも同様に、積極的に取り組んでい頂きたい活動になります。「保育士として働く事の魅力」を作ることで、潜在保育士の就業の機会を作ることができ、人材不足に悩む保育園にとっては新たな戦力獲得の主戦場となり得るでしょう。
結論
保育士資格は、子どもたちの成長を支える重要な役割を果たす国家資格になります。しかし、現状では多くの課題があり、その資格を最大限活用した、保育園での就業を望まない有資格者が多数いることが分かりました。さらに今回ご紹介したように、一度も保育園での就業をしたことがない有資格者も数多く存在します。保育士の人材不足を解消するためには、こうした方々にもっと保育士としての魅力を伝え、就業意欲を高めることが鍵となります。
そのために保育士が働きやすい環境を作ることは、社会全体の課題です。保育士の待遇や労働条件を改善することで、より多くの人が安心して保育の仕事に従事できるようになります。また施設側は、一般企業と同じように、魅力ある環境づくりや福利厚生の向上に努めることが、重要となります。そしてこれらは最終的に子どもたちの健やかな成長にも直結します。社会全体で保育士を支える意識を高め、より良い保育環境を実現していきましょう。