問題提起:
食品の製造や調理過程で安全を確保するためのHACCPシステムですが、その詳細な仕組みや手順についてはまだまだ理解が不足している方が多いのではないでしょうか。

記事を読んでわかること:
この記事では、HACCPの7つの基本原則と12の手順、重要な用語について詳しく解説します。HACCPの基本概念から具体的な実施方法まで、初心者にもわかりやすく説明します。

記事を読むメリット:
この記事を読むことで、HACCPの全体像を把握し、食品安全管理のための具体的な手法を理解できます。特に、保育園での給食安全管理に役立つ知識を身につけることができ、実際の現場での運用に役立つ情報を得ることができます。

はじめに

前回の記事で、HACCPの全体像を確認する事ができました。今回はHACCPの7つの基本原則や12の手順、その他重要な用語の意味など、細かく確認していきたいと思います。

HACCPの基本的な原則

HACCPは、食品の製造過程で発生し得る危害を特定し、それを管理するための7つの原則に基づいて構築されます​ (FDA)​​ (FoodDocs)​。

危害分析の実施

すべての工程で発生し得る潜在的な危害を特定し、分析します。これには、生物学的(例:細菌)、化学的(例:農薬)、物理的(例:ガラス片)危害が含まれます。例えば、食材の受け入れから調理、提供までの各工程で、どのような危害が発生する可能性があるかを評価します。このプロセスでは、各工程の詳細な観察とデータ収集が重要です。

重要管理点の設定(CCP)

特定された危害を制御または予防するための重要な工程(CCP)を設定します。CCPは、危害を防止、除去、または許容できるレベルまで減少させるための重要なポイントです。例えば、調理温度を特定の基準に保つことで、細菌の繁殖を防ぎます。

管理基準の設定

各CCPに対する具体的な管理基準(例:温度、pH、時間など)を設定します。管理基準は、CCPが適切に管理されているかを判断するための基準となります。例えば、75℃以上で調理することや、保存温度を4℃以下に保つことなどです。

CCPのモニタリングシステムの確立

CCPが効果的に管理されているかを監視する手順を確立します。モニタリングは、定期的なチェックや記録が必要です。例えば、調理中に定期的に温度を測定し、その結果を記録します。

是正措置の確立

管理基準が満たされない場合に取るべき是正措置を決定します。例えば、基準を超えた場合は再調理や製品の廃棄を行います。是正措置は、問題が発生した場合に迅速かつ効果的に対応するための手順です。

検証手順の実施

HACCP計画が適切に機能しているかを検証する手順を確立します。これには、定期的な監査や検査が含まれます。例えば、毎月の監査や年次レビューを通じて計画の有効性を確認します。

文書化と記録の保持

HACCP計画のすべての側面を文書化し、記録を保持します。これにより、問題が発生した場合に迅速に対応できるだけでなく、計画の継続的な改善が可能となります。

HACCPの12の手順

HACCPを効果的に構築するためには、以下の12の手順を踏むことが推奨されています。

HACCPチームの編成

各分野の専門家を集めてHACCPチームを編成します。チームには、製造、品質管理、衛生管理の専門家が含まれます。このチームがHACCP計画の策定と実施を担当します。

製品の説明

製品の特性、成分、製造工程などを詳細に記述します。これには、製品のレシピや成分の特性、包装方法、保存条件などが含まれます。詳細な製品説明により、どの段階で危害が発生しやすいかを特定できます。

製品の意図された使用目的の特定

製品がどのように使用されるかを特定し、使用時のリスクを評価します。例えば、製品が調理されるのか、そのまま食べられるのかなどを考慮します。これにより、適切な管理基準を設定できます。

工程フローダイアグラムの作成

製造工程のフローダイアグラムを作成し、視覚的に工程を把握します。これにより、各工程での危害を特定しやすくなります。例えば、食材の受け入れから最終製品の出荷までの流れを図示します。

フローダイアグラムの現地確認

作成したフローダイアグラムの正確性を現地で確認します。これにより、実際の工程と図面とのズレを修正します。現地確認により、全ての工程が正確に反映されていることを確認します。

危害分析の実施(原則1)

潜在的な危害を特定し、その影響を分析します。これには、具体的な危害の発生源や影響を評価します。危害分析により、どの危害が食品安全に最も重大な影響を与えるかを判断します。

CCPの設定(原則2)

危害を管理するための重要な管理点(CCP)を設定します。例えば、調理工程での温度管理などが含まれます。CCPは、危害を防止、除去、または許容できるレベルまで減少させるための重要なポイントです。

CCPの管理基準の設定(原則3)

各CCPの管理基準を設定します。例えば、最低調理温度や最大保存期間などを具体的に決定します。これにより、CCPが適切に管理されているかを判断できます。

CCPのモニタリングシステムの確立(原則4)

CCPの監視方法と担当者を決定します。これには、定期的な温度測定や記録の保持が含まれます。モニタリングシステムにより、CCPが管理基準を満たしているかを常に確認できます。

是正措置の確立(原則5)

管理基準が満たされない場合の是正措置を決定します。例えば、調理温度が低すぎる場合は再調理を行います。是正措置は、問題が発生した場合に迅速かつ効果的に対応するための手順です。

検証手順の実施(原則6)

HACCP計画が効果的に機能しているかを検証します。これには、定期的な監査やテストを通じて計画の有効性を確認します。例えば、毎月の監査や年次レビューを行います。

文書化と記録の保持(原則7)

すべての手順と結果を記録し、保管します。これにより、問題が発生した場合に迅速に対応できるだけでなく、計画の継続的な改善が可能となります。記録は、将来的な改善のための重要なデータとなります。

重要なHACCP用語

CCP(Critical Control Point)

CCPは、危害を防止、除去、または許容できるレベルまで減少させるための重要な管理点です。例えば、調理温度や時間、食材を管理する場所についての冷蔵温度や床下からの高さなどがCCPに該当します。CCPは、食品安全に直接影響を与えるため、厳密に管理されます。

是正措置

是正とは悪い点を改めて正しくすること、つまり是正措置は、管理基準が満たされない場合に取るべき具体的な措置です。これには、製品の再調理や廃棄などが含まれます。是正措置は、問題が発生した場合に迅速に対応し、再発を防ぐための重要な手段です。

フローダイアグラム

フローダイアグラムは、製造工程を視覚的に表現した図です。これにより、各工程での危害を特定しやすくなります。例えば、食材の受け入れから最終製品の出荷までの流れを図示し、各ステップでの危害の可能性を確認します。フローダイアグラムは、HACCP計画の基盤となる重要なツールであり、正確で詳細な情報が求められます。

モニタリング

モニタリングは、CCPが管理基準を満たしているかを監視するプロセスです。定期的な温度測定や記録が含まれます。例えば、調理中に一定間隔で温度を測定し、その結果を記録することで、基準を満たしているかどうかを確認します。モニタリングは、問題を早期に発見し、迅速に対応するために不可欠です。

検証

検証は、HACCP計画が効果的に機能しているかを確認するプロセスです。定期的なテストや監査が行われます。例えば、毎月の監査で計画の実施状況を確認し、必要に応じて改善点を見つけ出します。検証は、計画の有効性を保つために重要です。

保育園でのHACCPの適用

保育園でHACCPを適用する場合、特に給食の安全管理が重要です。以下のポイントに注意して実施します。

危害分析の実施

給食の調理過程での危害(微生物、化学物質、異物など)を特定し、分析します。例えば、細菌の繁殖やアレルゲンの混入、異物の混入などが考えられます。具体的には、食材の受け入れから提供までの各ステップで潜在的な危害を評価します。

重要管理点の設定

調理温度、保存温度、手洗いなどのCCPを設定します。例えば、調理温度を75℃以上に設定することで細菌の繁殖を防ぎます。CCPは、保育園の調理環境における重要な管理ポイントであり、厳密な管理が求められます。

管理基準の設定

各CCPに対する具体的な管理基準を設定します。例えば、調理温度は75℃以上、冷蔵庫内の温度は4℃以下など、具体的な数値基準を設定します。これにより、基準が明確になり、管理が容易になります。

モニタリングの徹底

調理過程での温度測定や手洗いの徹底をモニタリングします。例えば、調理中に定期的に温度を測定し、その結果を記録します。また、手洗いの徹底を確認するために、手洗いチェックリストを活用します。モニタリングは、基準が守られているかを確認するために重要です。

是正措置の実施

基準を満たさない場合の措置(再調理、廃棄など)を迅速に実施します。例えば、調理温度が低すぎる場合は再調理を行い、基準を満たさない食品は廃棄します。是正措置は、問題が発生した場合に迅速に対応し、食品の安全を確保するために重要です。

検証と記録

定期的に検証し、記録を保持します。例えば、月次レビューを通じてHACCP計画の実施状況を確認し、必要に応じて改善点を見つけ出します。また、すべての手順と結果を記録し、保管します。これにより、問題が発生した場合に迅速に対応できるだけでなく、計画の継続的な改善が可能となります。

HACCPの導入により、保育園で提供される給食の安全性が確保され、保護者の信頼を得ることができます。保育園の具体的な環境に合わせた柔軟な運用が求められますが、基本的な原則と手順を守ることで、効果的な食品安全管理が可能となります。

まとめ

HACCPは、食品安全を確保するための非常に効果的なシステムです。この記事で紹介した7つの基本的な原則と12の手順を理解し、適切に実施することで、食品の安全性を高めることができます。また、保育園でのHACCPの適用により、給食の安全管理が向上し、子どもたちの健康を守ることができます。HACCPの導入と維持には努力が必要ですが、その結果として得られる安全で安心な食環境は、非常に価値のあるものです。