問題提起:
待機児童問題は、共働き家庭が増加する中で、依然として深刻な課題です。多くの家庭が子どもを預ける場所を確保できず、保護者の就労にも影響を与えています。こうした背景の中、政府が新たに導入した子ども・子育て支援新制度が注目されています。

記事を読んでわかること:
この記事では、2015年に導入された子ども・子育て支援新制度の詳細について説明します。具体的には、認定こども園の普及、地域型保育の紹介、企業主導型保育事業の導入など、制度の主要ポイントを解説します。また、待機児童問題の解消に向けた取り組みや、保育の質向上のための具体的な施策についても触れます。

記事を読むメリット:
この記事を読むことで、新制度がどのように待機児童問題に対処し、共働き家庭を支援しているかが理解できます。また、認定こども園や地域型保育の特徴を知ることで、適切な保育施設を選ぶ際の参考になります。さらに、制度の導入に伴う課題とその解決策を知ることで、今後の子育て支援の方向性についても考えるきっかけとなります。

はじめに

子ども・子育て支援制度は、2012年8月に成立した「子ども・子育て支援法」、「認定こども園法の一部改正」、「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の子ども・子育て関連3法に基づく制度のことをいいます。この制度は、全ての子どもが質の高い教育と保育を受けられる環境を整えることを目的としています。保護者が安心して子育てと仕事を両立できるよう、様々な支援策が導入されています。今回ご紹介する子ども・子育て支援「新」制度は2015年に導入された日本の子育て支援政策の一環で、従前の子ども・子育て支援制度に更に、企業支援と仕事・子育て両立支援を加えたものになります。

子ども・子育て支援新制度の目的と背景

少子化対策
日本は長年、少子化が進行しており、これに伴う労働力不足や社会保障費の増加が深刻な問題となっています。特に共働き家庭が増加し、子どもを預ける場所の確保が難しいという状況がありました。この制度は、こうした背景から生まれました。

教育・保育の質向上
この制度は、待機児童問題の解消と共に、教育・保育の質の向上を目指しています。保育士の処遇改善や教育プログラムの充実を図ることで、子どもたちがより良い環境で成長できるようにしています。

制度がスタートした経緯

この制度は、政府が進める少子化対策の一環として導入されました。特に待機児童の問題が深刻化しており、共働き家庭が増加する中で、保育施設の不足が大きな課題となっていました。これに対処するため、2012年に子ども・子育て支援制度、そして2015年に子ども・子育て支援新制度が開始されました。これにより、保育施設の増設や認定こども園の普及が進められました。

制度の主要ポイント

以下がこども家庭庁(内閣府)より公表されている制度の概要です。

1.認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付(「施設型給付」)及び小規模保育等への給付(「地域型保育給付」)の創設
地域型保育給付は、都市部における待機児童解消とともに、子どもの数が減少傾向にある地域における保育機能の確保に対応します。

2.認定こども園制度の改善(幼保連携型認定こども園の改善等)
幼保連携型認定こども園について、認可・指導監督を一本化し、学校及び児童福祉施設としての法的に位置づけます。認定こども園の財政措置を「施設型給付」に一本化します。

3.地域の実情に応じた子ども・子育て支援
(利用者支援、地域子育て支援拠点、放課後児童クラブなどの「地域子ども・子育て支援事業」)の充実
教育・保育施設を利用する子どもの家庭だけでなく、在宅の子育て家庭を含むすべての家庭及び子どもを対象とする事業として、市町村が地域の実情に応じて実施していきます。

4.基礎自治体(市町村)が実施主体
市町村は地域のニーズに基づき計画を策定、給付・事業を実施します。国・都道府県は実施主体の市町村を重層的に支えます。

5.社会全体による費用負担
消費税率の引き上げによる、国及び地方の恒久財源の確保を前提としています。(幼児教育・保育・子育て支援の質・量の拡充を図るためには、消費税率の引き上げにより確保する0.7兆円程度を含めて1兆円超程度の追加財源が必要です)

6.政府の推進体制
制度ごとにバラバラな政府の推進体制を整備(内閣府に子ども・子育て本部を設置)しました。

7.子ども・子育て会議の設置
有識者、地方公共団体、事業主代表・労働者代表、子育て当事者、子育て支援当事者等(子ども・子育て支援に関する事業に従事する者)が、子育て支援の政策プロセスなどに参画・関与することができる仕組みとして、国に子ども・子育て会議を設置しました。
市町村等の合議制機関(地方版子ども・子育て会議)の設置努力義務とします。

参照:こども家庭庁(内閣府)

上記の中で、特に以下の3点がポイントになっています。

認定こども園の普及

保育園と幼稚園の機能を一体化し、保護者の就労状況に関わらず利用できる施設を増やします。

地域型保育

0~2歳児を対象に少人数での保育を提供し、待機児童の問題を解消します​ 。

企業主導型保育事業

企業が自ら保育施設を運営し、社員の子どもを優先的に受け入れることで、働く親の支援を強化します。

制度の具体的な内容

認定こども園の普及とその役割

認定こども園は、保育園と幼稚園の機能を併せ持つ施設で、0歳から5歳までの子どもたちが通うことができます。保護者の就労状況に関わらず利用できるため、多様な家庭のニーズに対応しています。これにより、保護者は働きながら安心して子どもを預けることができ、待機児童の減少にも寄与しています。

地域型保育の紹介と種類

地域型保育は、0~2歳児を対象に少人数での保育を提供する制度です。家庭的な環境で保育が行われ、地域の保育ニーズに柔軟に対応しています。具体的には、以下の種類があります:

  • 家庭的保育(保育ママ): 少人数の家庭的な保育環境を提供します。
  • 小規模保育: 小規模な施設で少人数の保育を行います。
  • 事業所内保育: 企業が従業員の子どもを預かる保育施設を運営します。

保育所利用のための認定制度

保育所の利用には、自治体による利用調整が行われます。利用申請を行い、保育の必要性が認められた場合に利用可能です。1・2・3号認定はこれにあたります。保育所では、長時間保育や延長保育、一時預かりなど、さまざまな保育サービスを提供しています。

認定制度については以下もご参照ください

制度による変化と影響

保育サービス供給の変化

制度の導入により、保育サービスの供給が大きく変化しました。特に認定こども園や地域型保育の増加により、保育施設の選択肢が広がりました。また、企業主導型保育事業の導入により、働く親が安心して子どもを預けられる環境が整いました。

待機児童問題への対応と解消への取り組み

この制度は、待機児童問題の解消に向けた取り組みを強化しました。保育施設の増設や地域型保育の導入により、待機児童の数を減少させることを目指しています。また、自治体による保育ニーズの調査や、保育士の確保・育成が進められています。

企業主導型保育事業とその助成内容

企業主導型保育事業は、企業が自ら保育施設を運営し、従業員の子どもを優先的に受け入れる制度です。この事業には、政府からの助成金が支給され、企業が保育施設を運営する際の費用を軽減します。これにより、企業は従業員の子育て支援を強化し、働きやすい環境を提供することができます。

制度の量的拡充と質の向上

保育支援の量の拡充に関する施策

この制度では、保育支援の量的拡充が進められています。具体的には、認定こども園や地域型保育の増設、保育施設の設備改善、保育士の確保・育成などが含まれます。これにより、保育施設の供給量が増加し、待機児童の問題解消が期待されています。

保育の質を向上させるための取り組み

保育の質を向上させる対策として、以下の取り組みが行われています。

  • 保育士の処遇改善:保育士の給与の増額やキャリアアップ研修の実施
  • 保育プログラムの充実:子どもの発達に応じた教育・保育プログラムの提供
  • 保育環境の整備:保育施設の設備改善や安全対策の強化

処遇改善に関しては下記の記事を参照ください

職員配置の改善と処遇改善

この制度では、保育士や幼稚園教諭の職員配置基準の見直しが行われています。これにより、一人当たりの子ども数が減少し、きめ細やかな保育が可能になります。また、処遇改善として、保育士の給与増額やキャリアパスの整備が進められ、職員のモチベーション向上と保育の質向上が図られています。

配置基準の見直しに関しては以下を参照ください

制度の今後と課題

今後の展望と期待される効果

今後の展望として、さらなる保育施設の拡充と保育士の確保が挙げられます。特に、都市部における保育施設の不足や地方における保育士の確保が課題となっているため、地域に応じた対応が求められています。また、保育の質向上に向けた取り組みが続けられ、子どもたちが安全で安心な環境で成長できるようになります。これにより、働く親が安心して仕事に専念できる環境が整い、少子化対策にも貢献することが期待されています。

実施に伴う課題とその解決策

制度の実施に伴う課題として、以下の点が挙げられます。

保育士不足
保育士の待遇改善やキャリアアップ支援が重要です。また、資格取得支援や研修の充実を図ることで、保育士の育成を強化する必要があります。

保育施設の質のばらつき
保育施設の質を均一に保つためのガイドラインを策定し、定期的な監査や評価を行うことが必要です。特に、小規模な保育施設や地域型保育においては、質の維持が課題となることが多いです。

地域間の格差
都市部と地方部での保育施設の供給や保育士の確保状況に大きな差があります。地方自治体と連携し、地域ごとのニーズに応じた支援策を講じることが重要です。

保育業界における制度の受け入れと反応

この制度は、保育業界に大きな変革をもたらしました。多くの保育施設が認定こども園や地域型保育に移行し、保育の質向上や待機児童問題の解消に向けた取り組みが進められています。しかし、現場からは以下のような声もあります。

職員の負担増加
保育士や幼稚園教諭の負担が増加しているとの指摘があり、職場環境の改善が求められています。

制度の理解不足
保護者や企業が新制度について十分に理解していないケースがあり、広報活動の強化が必要です。

地域ごとの対応の違い
各自治体の対応にばらつきがあり、全国的な統一基準の策定が求められています。

まとめ

子ども・子育て支援新制度は、全ての子どもが質の高い教育と保育を受けられる環境を提供し、保護者が安心して子育てと仕事を両立できるようにするために導入されました。この制度により、保育施設の増設や認定こども園の普及が進み、待機児童問題の解消に向けた取り組みが強化されました。さらに、保育士の処遇改善や保育プログラムの充実が図られ、保育の質が向上しています。
一方で、制度がわかりづらい事から、自治体による対応のばらつきが生じたり、根本的な問題として、保育士の不足や保育の質の均一化がなされていないという事も問題視されています。今後も、政府や自治体、企業が連携して子育て支援を進めていくことで、少子化対策や社会全体の福祉向上に寄与することが期待されています。また各施設単位でもこの問題点の解決のため、効果的な採用の実施や研修プログラムの構築を行う事が重要です。その際、不足するリソースを補うために、外部のBPOや専門家に一部依頼をすることも有効な策になるかもしれません。