問題提起:
保育園の運営において、保育理念、保育目標、保育方針はどのように設定すべきか、またそれぞれがどのように子どもの成長に寄与するかについて悩んでいませんか?これらの指針を明確にし、一貫性を持たせることは、保育の質を向上させるために不可欠です。しかし、具体的な違いやその設定方法について、正しく理解している園は少ないかもしれません。
記事を読んでわかること:
この記事では、保育理念、保育目標、保育方針のそれぞれの定義や役割、重要性について詳しく解説します。さらに、これらをどのように設定し、日々の保育活動に適用するかの具体的なステップについても紹介します。具体例を交えながら、年齢別の保育目標や実践的な保育方針の作り方を学ぶことができます。
記事を読むメリット:
この記事を読むことで、保育園の運営において基本方針を明確にし、保護者や保育士の信頼を得るための具体的なステップを理解できます。一貫した保育プログラムを構築するための統合的アプローチを学び、保育の質を向上させるヒントを得ることができます。これにより、選ばれる保育園になるための土台を築くことができるでしょう。
保育理念、保育目標、保育方針の必要性
保育園では保育理念、保育目標、保育方針とそれぞれ似たような言葉を使い、それぞれ内容を示しているところが多くなっています。これらは保育園の方向性を明確化にして、一貫した保育を提供する指針になったり、保育の質を一定の基準に保つこと基準となったりします。また子ども預ける保護者へ価値観を伝え、信頼性を築く基本となるものです。
今回はこの3者の違い、関連性を詳しく確認して、保育園の経営や人材育成、そして保護者にも保育士にも選ばれる保育園になるために必要なことを確認していきましょう。
保育理念とは
保育理念の定義と役割
保育理念は、保育施設が目指すべき基本的な価値観や哲学で、長期的なビジョンになります。保育施設が子どもたちに、どのような価値観や人間性を育んでほしいかを示す基本的な指針と言い換えることができるでしょう。これは、園全体の教育方針を支える基盤であり、日々の活動の根底に流れる思想です。
保育士と保護者の視点から見た保育理念の重要性
保育士
保育士は、保育理念を基に日々の活動を計画し、実施します。これにより、一貫性のある保育が提供され、子どもたちの健全な成長が促されます。
保護者
保育理念が明確に示されていることで、保護者は園の教育方針を理解し、安心して子どもを預けることができます。また、理念に共感することで、保護者と園との信頼関係が深まります。
具体例
以下が保育園で設定されている保育理念の一例です。
自己肯定感を育む
子どもたちが自分自身を肯定的に捉え、自信を持って成長できるようにする。
共同生活を育む
他者との関わりを通じて、協力や共感の心を育てる。
感性を豊かにする
芸術活動や自然体験を通じて、豊かな感受性や創造力を育む。
効果的な保育理念を作成するステップ
まずは園の価値観を明確化させます。園が大切にする価値観や目指す方向性を改めて洗い出します。このステップが一番重要となり、今後の園の特色を表す基礎になります。施設経営者はもちろん、保育士などのスタッフとも話し合いを持つと、見えてくるものがあるかと思います。その上で、保護者や地域の意見を取り入れ、共感を得られる理念を構築します。「子どもの個性を大切にする」「笑顔あふれる保育を行う」というような抽象的な表現でされることが多いですが、理解しやすい言葉を用いて、できるだけ端的に設定しましょう。長くなる場合は1つに限らず、いくつかに分解して、保育理念を設けることも問題ではありません。最後に全スタッフや保護者に理念を周知し、共有し保育園の基本指針としてください。
保育目標とは
保育目標の定義と役割
保育目標は、子どもたちがどのように育ってほしいかという具体的な指標を示します。保育計画や月案、週案、日案などに記載されることも多いでしょう。保育理念を具体的な形にしたもので、日々の保育活動を通じて子どもたちが達成すべき具体的な成果、つまり子どもを主体にした目標が設定されます。
保育目標が子どもたちの成長にどのように影響するか
保育目標は、子どもたちの成長を促すための具体的な指針となります。そのため、保育目標は子どもたちの理想の姿を具体的に示すことが重要です。これを指針にすることで、保育士は子どもたち一人ひとりの発達段階に応じた適切な支援を行うことができます。
年齢別の保育目標の具体例(0歳から5歳まで)
以下が、年齢別での保育目標の一例になります。
- 0歳児:心身の健康の基礎を培うこと。養護の行き届いた環境で基本的な生活習慣を身につける。
- 1歳児:人との関わりを通じて好奇心を養い、言葉への興味を育てる。
- 2歳児:自己主張を覚え、保育者や友達との関わりを楽しむ。
- 3歳児:集団生活を通じて協調性を育て、自己表現の力を養う。
- 4歳児:言葉の表現力を養い、集団活動を楽しむ。
- 5歳児:社会性や協調性を身につけ、就学準備を進める。
保育目標の設定方法と考慮すべきポイント
子どもの成長を促すための具体的な指針となるため、各年齢の発達段階を理解し、それに応じた目標を設定する事が重要となります。ここでは保育理念と比べると「思いやりの心を持つ子」「自己表現ができる子」など、子どもを主体とした目標が設定されます。さらに具体的かつ達成可能な目標を設定し、目標達成のプロセスを明確にすることで、子どもの成長に寄与するものとなります。計画や月案、週案、日案などに記載されるのもそのためです。そして、保護者と連携し、家庭での取り組みと保育園での取り組みが一貫するようにするとなお効果的です。
保育方針とは
保育方針の定義と役割
保育方針は、保育理念と保育目標を実現するための具体的な手法や活動指針を示します。これにより、日々の保育活動の方向性が明確になります。
保育方針が日々の保育活動にどのように役立つか
保育方針は、保育士が日々の活動を計画し、実施する際の指針となります。これにより、活動の一貫性が保たれ、子どもたちに安定した保育環境が提供されます。
保育方針の具体例
保育方針は以下のようなものがあげられます。
基本的生活習慣の習得
規則正しい生活習慣を身につけ、心身の健康を促進する。
食後に歯磨きをするなどの行動を喚起することも方針に沿った活動になります。
食育
バランスの取れた食事を通じて、食に対する興味を育てる。
栄養士と協力し、食育の授業を行います。紙芝居や農業体験なども食育の一環です。
安心・安全の確保
安全な環境を整備し、子どもたちが安心して過ごせるようにする。
施設の備品整備や安全管理もこちらに該当します。
実践的な保育方針を策定するプロセス
まず保育理念と保育目を確認し、それに基づいた方針を策定する必要があります。これらに沿ったものでないと、施設の考えとスタッフの行動に一貫性が保てなくなるためです。さらに理念や目標に比べるとより日々の保育活動に落とし込む、具体的な取り組みを計画する必要があります。またスタッフの意見収集し、保育士・栄養士双方の意見を取り入れ、現場で実践可能な方針を策定する事がポイントになります。
三者の違いと関連性
保育理念、保育目標、保育方針の違いを明確にする
改めて三者の違いを考えていきたいと思います。保育理念は保育施設が目指すべき基本的な価値観で、長期的なビジョンを示し、保育活動の根底にある考え方。保育目標は保育理念を具体的な行動に落とし込んだもので、日々の保育活動を通じて子どもたちに身につけさせたい具体的な目標や成果。保育方針は保育理念と保育目標を達成するための具体的な手法や取り組み。つまり、保育理念が基盤となり、それを具現化するための具体的な目標が保育目標であり、それを実現するための具体的な手法や活動指針が保育方針です。このように、三者は一貫して連携しながら、園全体の保育活動を支えています。
一貫性のある保育プログラムを作成するための統合的アプローチ
一貫性のある保育プログラムを作成するためには、保育理念、保育目標、保育方針が緊密に連携する必要があります。まず、全スタッフに保育理念を共有し、共通の価値観を持つように促します。これは既存のスタッフと定期的な場を設けることはもちろん、採用時点で自園が目指す理念を共有し、共感してくれる方を採用するという点においても重要となってきます。
そして、保育理念に基づいた具体的な目標を設定し、全員がその目標に向かって活動する指針とし、目標達成のための具体的な方針を立て、日々の活動に取り入れましょう。
例えば、「協調性を育む」という保育理念がある場合、保育目標として「友達と協力して活動する楽しさを知る」を設定します。そのための保育方針として「グループ活動を増やす」「協力を促すゲームや活動を取り入れる」などが挙げられます。保育士はこれらを取り入れたカリキュラムも策定することで、ゴールとなる将来像の「協調性を育む」に近づく教育が可能となります。
これらがどのように相互に補完し合うのかの関連性
保育理念が設定されると、その理念を実現するための保育目標が明確になります。
保育目標を達成するための具体的な方法が保育方針として策定されます。
例えば、「子どもたちの自己肯定感を育む」という保育理念を掲げる園では、保育目標として「子どもたちが自分の意見を表現できるようになる」を設定し、それを実現するために「毎日の振り返り時間を設ける」「子どもたち同士の対話を促進する」といった保育方針を立てます。このように理念に向けた目標を達成するために、方針が固まる事になり、その結果、施設の考えと、保育士の行動に一貫性を持たせることが可能となります。また園の方針や目標が明確に示されることで、保護者や地域社会との間で、信頼が生まれたり、具体的な目標設定により、子どもの発達段階に応じた適切な支援が可能となります。
このように、保育園にとっての保育理念・保育目標・保育方針の策定は、企業でいうところのMVV(Mission Vision Value)に通ずるものがあるのかもしれません。
保育理念・保育目標・保育方針の作り方
園の特性や地域社会を反映した保育理念の設定方法
まずは園の特性を把握することが重要です。園の歴史や文化、地域社会の特徴を理解し、それに基づいた理念を設定しましょう。またステークホルダーの意見として、保護者や地域住民の意見を取り入れ、共感を得られる理念を構築することもポイントです。最後に園が大切にする価値観や教育方針を明確にし、抽象的な内容であっても、具体的な言葉を用いて表現しましょう。
実現可能で具体的な保育目標の設定方法
保育理念を念頭に置いた保育目標を立てる上で、SMART原則1を活用するのも有効な手段です。SMART原則とはSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性のある)、Time-bound(期限付き)の原則に従って目標を設定することです。また子どもの発達段階に応じた具体的な目標を設定しましょう。そして定期的に目標の達成度を評価し、必要に応じて目標を見直すことも重要です。
- SMART原則については以下の記事を参照ください ↩︎
日々の保育活動に適用できる保育方針の立て方
保育理念・保育目標に合致する、具体的な活動計画の作成を立てましょう。その際、子どもの状況に応じて柔軟にアプローチを変える事も重要です。保育目標において、年齢別の目標を掲げていたとしても、子どもの発達はそれぞれです。個々にあった方針を立てることが本当の意味での保育方針になります。またこれら保育方針は全スタッフと共有し、一貫した保育を実施すること、保護者や地域社会との間で定期的に情報を共有し、保育方針への理解を深めることも大切です。
さらに保護者や地域社会と協力してイベントを実施し、連携を強化したり、保護者や地域からのフィードバックを収集し、保育方針の改善に役立てることも重要です。
これらを行うために、しっかりとしたPDCAを回すことが鍵となります。
まとめ
今回は保育理念、保育目標、保育方針についてみてきました。これらは保育施設の運営と子どもたちの成長において非常に重要な役割を果たします。これらを明確にすることで、一貫性のある保育が提供され、子どもたちの健全な発達が促されます。今後の保育実践では、以下の点に留意して保育理念、保育目標、保育方針を適用していくことが重要です。
定期的な見直し
定期的に理念や目標、方針を見直し、現場の状況に応じて更新する。PDCAが重要となる。
スタッフ教育
全スタッフに対して理念や目標、方針の重要性を教育し、共通の理解を深める。人材育成は今後の保育業界にとって重要な課題である。
保護者との連携
保護者と連携し、家庭での取り組みと一貫した保育を実現する。選ばれる保育園になる。
上記を理解した上で、是非、自園の特徴を打ち出した保育理念、保育目標、保育方針を作成してください。また外部の専門家や他園との交流を通じて、新たなアイデアや知識を得ることも重要です。研修会やセミナーへの参加、他園との情報交換を積極的に行い、保育の質を向上させる努力を続けましょう。