問題提起:
日本の保育士配置基準は、現代のニーズに合わなくなっています。この記事では、「もう1人保育士を!」運動の緊急性とその背景、提案されている改善点について解説します。

記事を読んでわかること:
この記事を読むことで、保育士不足の現状と、改善された配置基準が子どもたちの未来にどのように影響するかがわかります。また保育園経営者の立場からこの流れに対応するための具体例を提案します。

記事を読むメリット:
この知識を得ることで、保育の質向上に向けた社会的な動きを把握、経営者として取るべき適切な対応を考える機会を得ることができるでしょう。

「もう1人保育士を!」運動とは

運動の概要とその緊急性

「もう1人保育士を!」は、愛知県を中心に保育者や保護者、関連団体が連携して活動しており、日本の保育士配置基準を改善することを目指す運動です。この運動は、保育士1人あたりの子どもの数を減らし、より良い保育環境を提供することを目的としています。現在の配置基準では、保育士の負担が大きく、子どもたちに十分なケアを行うことが難しいため、緊急にこの基準を見直す必要があります。

保育士配置基準の現状と問題点

日本の保育士配置基準は非常に厳しいもので、0歳児3人に対して1人、1・2歳児6人に対して1人、3歳児20人に対して1人、4・5歳児30人に対して1人の割合で保育士が配置されています。このような基準では、保育士が過労になりやすく、子どもたちに十分なケアを提供することが難しくなっています。これにより、保育の質が低下し、子どもたちの安全と成長に悪影響を及ぼしています。

運動がおこった背景

保育士配置基準の歴史的背景

日本の保育士配置基準は児童福祉法に基づいて、厚生労働省の管轄のもと、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準において、保育士1人が担当する子どもの年齢別の人数が定められています。ですがの配置基準は1948年に制定されて以来、実に76年間、大きな変更がありません。保育士の配置基準は、子どもたちの安全と保育の質を確保するために設けられています。当時の基準は現在の社会環境や家庭構成とは大きく異なっており、現代の保育ニーズに適応していないため、早急な見直しが必要です。

保育士不足とその影響

保育士不足は、保育現場での過酷な労働環境を招き、多くの保育士が離職してしまう原因となっています。これにより、さらに保育士の負担が増加し、悪循環が続いています。保育士不足が解消されなければ、保育の質の向上は期待できません。

保育の質に対する社会的要求の高まり

保護者や社会全体からは、子どもたちが安全で質の高い保育を受けることへの期待が高まっています。保育の質を向上させるためには、現行の配置基準を見直し、保育士の負担を軽減する必要があります。

保育士の配置基準変更で目指す目的と主張

「もう1人保育士を!」運動の具体的な目標

この運動の具体的な目標は、保育士配置基準を見直し、以下のような改善を実現することです。

  • 0歳児2人に対して1人の保育士
  • 1・2歳児4人に対して1人の保育士
  • 3歳児15人に対して1人の保育士
  • 4・5歳児20人に対して1人の保育士

改善された配置基準による期待される効果

改善された配置基準により、保育士の負担が軽減され、より質の高い保育サービスの提供が可能になります。また子どもたち一人一人に対するケアの質が向上し、子どもたちの発達により良い影響を与えるほか、安全管理が強化され、事故のリスクが低減されます。また、職場の満足度が向上することが期待され、結果として保育士の離職率が低下し、保育現場の安定化が期待されます。

政府や自治体に対する要望

この運動では、政府や自治体に対して、保育士配置基準の見直しに向けた具体的な取り組みを求めています。また、配置基準のみならず、保育士の待遇改善や労働環境の整備にも積極的に取り組んでほしいと要望しています。

諸外国の配置基準との比較

日本の保育士配置基準は、他国と比較した場合、乳幼児期においては似たような基準を持っていますが、年齢が上がるにつれて他国の基準と大きく異なる傾向があります。以下で具体例を示したいと思いますが、日本の基準は大幅に遅れています。

ドイツ
2歳児に対して保育士1人あたりの子どもの数が終日利用で3.75人、半日利用で7人となっています。

スウェーデン
就学前学校での平均的な配置基準が保育士1人に対して5.2人です。

ニュージーランド
全日型の保育で2歳児未満が5人、2歳児以上が10人となっています。

アメリカ(ニューヨーク州)
1歳半の子どもに対して保育士1人あたり5人、3歳で7人、4歳で8人、5歳で9人となっています。

イギリス

0歳児~2歳未満が3人、2歳が4人、3歳以上が8人から30人と、保育士の取得要件とレベルによって配置できる子どもの人数が異なります。

フランス
0歳児4人に対して1人の配置がされています。

ドイツ
0歳児3人に対して1人の配置がされています。

運動に対する政府の対応

2024年度から、保育士の配置基準が76年ぶりに見直されることになりました。この見直しは、子どもたちにより質の高い保育を提供し、保育士の働きやすい環境を作るための重要なステップとなります。

変更後の配置基準

ただし、変更後の配置基準は当初「もう1人保育士を!」運動にて目標としていた基準までには及ばず、それぞれ以下の人数となりました。

変更対象となった配置基準

4歳児と5歳児
現行の「30人に対して保育士1人」から「25人に対して保育士1人」へと変更

3歳児
現行の「20人に対して保育士1人」から「15人に対して保育士1人」へと変更

1歳児
2025年以降に「6人に対して保育士1人」から「5人に対して保育士1人」への変更が予定

このように全ての年齢において、目標としていた人数配置に及ばなかった他、今回の配置基準変更においては0歳児・2歳児は具体的な変更基準が明示されませんでした。

さらに2024年度から実施される保育士配置基準の改定において、政府は経過措置を設けています。

保育士配置基準の改定における経過措置と懸念点

経過措置とは、新しい配置基準に即座に対応できない保育園に対して、一定期間、従前の基準で運営を続けることを許可するものです。
今回の改定は、保育士の確保や処遇改善を進めるためのものですが、保育園経営者の立場や保育士不足の現状を考えた時、すべての保育園が新しい基準を満たせるわけではありません。そのため、政府は「当分の間は従前の基準で運営することも妨げない」という経過措置を設けています。つまり、基準は変更したが、しばらくは従前の基準を守っていれば、問題はないという事です。
さらに、この経過措置には明確な期限が設定されていないため、実際に法的な効果を持つ配置基準に違反した保育園がどのように対応するかは、今後の動向を注視する必要があります。

とは言え、保育園経営者においても、「今は経過措置があるから大丈夫」と安易に考えるべきではない事は肝に銘じるべきでしょう。

配置基準変更に対応するための施策

保育士不足解消に向けた政府の取り組み

政府は、保育士不足を解消するために、保育士養成校の増設や奨学金の拡充などの成り手を増やす施策を実施することも検討して欲しいと考えています。また、公立の保育士は公務員の扱いになります。そのため、政府が先陣をきって、公立保育園の給与を引き上げることで、職業の魅力を高めることも重要です。

保育園が進めるべき対応策

保育園にとっては、保育士の配置基準変更に伴い、より良い保育サービスの提供が提供できるようになる半面、人員増加によるコスト増が大きな懸念材料となります。また人材不足が叫ばれている中での保育士確保には、保育士の待遇改善として、給与の引き上げや労働時間の短縮、福利厚生の充実が必要です。さらに、定期的な研修やキャリアアップの機会を提供することで、保育士のモチベーションを高めることも重要になります。

このように保育園経営を考えると、経済面や人事強化が大きな負担となるでしょう。そのため、一つの解決策として、パート保育士の活用プラス外部リソースの利用をあげたいと思います。

パート保育士の利用

パート保育士を活用した場合においても、配置基準を満たすことができます。経験豊富でありながら、家庭の事情等で限られた時間でしか働けない優秀な保育士に、本人の希望を織り込みながら働いてもらう事は、若手保育士にとっても新たな視点での学びを得るチャンスにもなります。また正社員の場合では必須となる社会保険料の保育園負担分に関しても、労働時間と本人の希望が合致すれば削減ができる経済的なメリットもある事も魅力の一つになります。

パート利用による社会保険料の経済的メリットはこちらも参照ください。

外部リソースの利用

パート保育士の利用と併せて検討したいのが、外部リソースの利用です。保育士の業務の一部、特に事務的な作業などを外部にアウトソースすることで、保育士の業務負荷を軽減することが期待できます。パート保育士には保育に集中してもらい、それ以外はBPOサービスを始めとした外部専門家を利用することで、資源の適切な配分と安定した経営が図れるようになります。このように保育園の取り組みとして、保育士が本当にやるべき業務に集中できる環境を整えることも、最終的には離職率の低下に繋がり、トータルコストの削減に寄与するものと考えれます。またどうしても閉鎖的な職場環境になりがちな保育士にとっては、外部パートナーとの接触自体が、重要な経験になります。

保育園のBPO活用に関しては以下もご参照ください。

運動の影響と展望

運動が保育士や保護者に与える影響

「もう1人保育士を!」運動は、保育士の労働環境の改善を促進し、保護者にとっても安心して子どもを預けられる環境を提供します。これにより、保育の質が向上し、子どもたちの健やかな成長が期待されます。

保育士配置基準の改善が子どもたちの未来に与える影響

配置基準の改善により、子どもたちはより充実した保育を受けることができ、健全な発達を遂げることができます。これが将来の学習能力や社会性の発展に寄与します。

長期的な視点での保育環境の改善に向けた展望

短期的にみると、人材不足の保育業界で、現在より高い基準の配置を求める動きに対応することは、中々ハードルが高いことですが、長期的には、保育士配置基準の見直しを通じて、保育士の職場の安定性による離職率の低下や、より質の高い保育環境を整えることが期待されます。これにより、次世代の子どもたちが健全に育ち、日本社会全体の発展に寄与することでしょう。

まとめ

以下に配置基準変更についてまとめました。

年齢2023年以前の配置基準2024年以降の配置基準変更点
4歳・5歳児30人に対し保育士1人25人に対し保育士1人5人減少し、よりきめ細やかな保育へ
3歳児20人に対し保育士1人15人に対し保育士1人5人減少し、一人ひとりの発達に合わせた保育へ
2歳児15人に対し保育士1人15人に対し保育士1人変更なし
1歳児6人に対し保育士1人5人に対し保育士1人1人減少し、乳児期の繊細なケアがより充実へ(2025年度以降)
0歳児3人に対し保育士1人3人に対し保育士1人変更なし

今回は「もう1人保育士を!」運動について考えてきました。この運動は、日本の保育の質を向上させるために非常に重要です。配置基準の見直しは、保育士の労働環境を改善し、子どもたちの安全と発達を保障するための鍵となります。
一方で、この動きに対応する保育園は、人員確保に向けて新たな施策を講じなければなりません。パート保育士や外部リソースの利用を考えながら、適切な保育園を目指してください。


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