問題提起:
子どもたちを性犯罪から守るための具体的な対策が求められる中、日本版DBS制度が注目されています。

記事を読んでわかること:
この記事では、日本版DBS制度の仕組み、適用範囲、法的側面、そして他国の事例との比較を通じて、この制度の全貌を解説します。

記事を読むメリット:
日本版DBS制度がどのようにして子どもたちの安全を確保するのかを理解し、制度導入の背景や期待される効果についての知識を深めることができます。

はじめに

DBS制度とは

イギリスでは、Disclosure and Barring Service (DBS) が導入されており、特定の職業に就く人々の犯罪歴をチェックすることで、子どもや保護が必要な人々を守る制度があります。また、性犯罪者の管理と監視を行うための登録システムも整備されています。このイギリスのDBS制度は、日本版DBSのモデルとなっています。

日本版DBSの概要と目的

日本版DBSとは、前述したイギリスのDBSをモデルに、性犯罪歴のある人物が子どもと関わる職業に就くことを防ぐことを趣旨として、導入が検討されている制度です。この制度は、求職者の犯罪歴を確認(照会)し、適性のない人物を排除することで、子どもたちの安全を守ることを目的としています。現在、日本では性犯罪歴のある大人が子どもに関わる仕事に就くことを禁止する法律はありませんが、日本版DBSの導入により、性犯罪歴のある者が教育や保育などの分野で働くことが困難になることが期待されています。

日本版DBSの背景

近年、日本でも教育や保育の現場での性犯罪事件が相次いで報告されており、その対策が急務となっています。特に、2023年の子ども家庭庁の発足に伴い、子どもの安全を守るための法整備が進められており、その一環として日本版DBSの導入が注目されています​。

こども家庭庁の発足

2023年に設立された子ども家庭庁は、子どもや家庭に関連する政策を総合的に管理・推進するための機関です。この庁の設立により、子どもの安全を確保するための新たな制度が次々と導入されています。その一環として、日本版DBSの導入が検討されるようになりました。

性犯罪対策の必要性

子どもへの性暴力は家庭内で起きることが圧倒的に多い傾向にあると言われています。さらに家庭外に目を向けると、子どもに身近な場所である、教育したり指導したりする場で起きることが多いといえます。また子どもへ性加害する人は、職業を通して行動化する特徴があるとされ、加害者たちは、子どもと接点の多い職業を意図的に選び、性加害しやすい環境をみずから整えています。こうした状況から、教育や保育の現場では、子どもたちが性犯罪の被害に遭うケースが後を絶ちません。この問題に対処するため、性犯罪歴のある人物が子どもと接する仕事に就くことを防ぐ仕組みが必要とされています。日本版DBSは、そのための有効な手段として期待されています。

日本版DBSの仕組みと適用範囲

制度の概要

日本版DBSは、性犯罪歴を確認し、必要に応じて特定の職業から排除する制度です。この仕組みは、雇用者が従業員の性犯罪歴を確認し、適性のない人物を排除することで成り立っています​。

性犯罪歴確認の手順と対象者

日本版DBSの下では、雇用者は従業員の過去の犯罪歴を調査し、性犯罪歴がある場合にはその情報を基に適性を判断します。この手続きは厳格に行われ、プライバシー保護の観点からも慎重に取り扱われます​。以下が現在議論されている具体的なステップになります。

照会対象
性犯罪歴は刑法犯罪だけでなく、盗撮などの条例違反も含まれます。新たに採用される人だけでなく、既に雇用されている人も対象に含める方針です。

照会期間
性犯罪歴を照会する期間は、禁錮刑以上の場合は刑の終了後20年、罰金刑以下は執行後10年とする方向で調整されています。これは性犯罪者は再犯率が高いとの考えから想定されている紹介期間になります。

照会方法
事業者がこども家庭庁に申請し、法務相に照会した上で「犯罪事実確認書」を作成し交付する流れになります。事業者には犯歴を一定の期間で廃棄する義務が課されます。

適用範囲
日本版DBSの適用範囲は、学校、保育所、学習塾、スポーツクラブなど、多岐にわたります。また、最近では無償ボランティア活動にも適用することが議論されています。学校や保育所など公的機関は制度の導入が義務化される見通しですが、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業については導入を任意とすることが検討されています。

対象の拡大に関する議論と署名活動の状況

現在、署名活動が行われており、日本版DBSの対象をさらに広げることが求められています。この活動は、子どもと関わるすべての仕事に対して制度を適用することを目指しています​​。

日本版DBSの法的側面と課題

日本版DBSの創設法案は、性犯罪歴の確認と適用範囲を明確に定めています。この法案の主なポイントは、性犯罪歴のある人物を教育や保育などの現場から排除することにあります。一方で、以下のような課題も存在します。

職業選択の自由と現職者への影響

この制度は、性犯罪歴者をデータベース化することによる「ブラックリスト化」が生じ、職業選択の自由を制限し、社会からの排除につながる恐れがあると指摘する専門家もいます。また既に働いている従業員に対しても、この制度は適用される可能性があります。そのため、現職者の処遇や権利に関する問題が生じることも予想されます​。憲法上の職業選択の自由を守りつつ、性犯罪防止のための適切なバランスが求められます。

制度運用とプライバシーの問題

個人情報の取り扱いについても厳格なルールが必要です。本制度は民間の塾などは任意適応の見通しのため、法的拘束力がなく、情報漏洩のリスクがあるという懸念があります。そのため、プライバシー保護と情報管理の厳格化、特に、個人情報の漏洩を防ぐための制度設計が重要です。

再犯率の誤解

日本版DBS制度の導入は性犯罪者の再犯率が高いという前提に基づいていますが、これに完全に合致する適切なデータがある訳ではありません。法務省の報告によれば、性犯罪の2年以内の再入率は2020年(令和2年)出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると低いと報告されています。一方で、性犯罪は見つかりにくい事もあり、本来の再犯率を調べるには、個別の追跡調査が必要なため、完全に合致するデータを得ることは現状では困難です。

そのため現段階では、日本版DBSの導入による再犯率の変化については、明確な結論を出すことは難しいと言えます。引き続き、この問題に関する議論や研究の進展に注目していくことが重要です。

各国のDBS制度と性犯罪者の社会復帰支援

日本が参考にしたイギリスはもちろん、アメリカやオーストラリアなどでも同様の制度が導入されています。これらの国々の制度を参考にしながら、日本版DBSの導入が進められています。特に制犯罪者の社会復帰支援についても、諸外国では議論されています。

イギリス

イギリスでは、日本が制度策定の参考にしたDBSが導入されており、特定の職業に就く人々の犯罪歴をチェックすることで、子どもや保護が必要な人々を守る制度があります。また、性犯罪者の管理と監視を行うための登録システムも整備されています。性犯罪者への社会復帰支援も制度化されており、刑務所内で実施される性犯罪者処遇プログラム(SOTP)があり、認知行動療法をベースにしたプログラムが多様な性犯罪者に対応しています。また、公衆保護のための措置として、認可住居や電子監視などが用いられており、再犯防止に効果を示しています。

アメリカ

犯罪者の社会への再統合(re-entry)を重視し、地域単位での効果的な犯罪防止対策が立案されています。連邦行刑局による取り組みとして、全国に250か所の社会内再統合準備センターが設けられています。

ドイツ

ドイツでは、性犯罪者の社会復帰を支援するために、犯罪者のリハビリテーションに重点を置いたプログラムがあります。これには、職業訓練や心理カウンセリングが含まれます。

フランス

フランスでは、性犯罪者に対する追跡システムがあり、社会復帰後も一定期間、行動を監視することで再犯のリスクを減らす取り組みが行われています。

日本版DBS導入による期待と今後

日本版DBSの導入により、子どもと関わる職場での安全性が大幅に向上することが期待されています。これにより、子どもたちが安心して過ごせる環境が整えられます​。これは保護者の立場としても、大きな安心感に繋がる事になります。
また性犯罪抑止の効果も期待されており、社会全体の信頼性向上につながるとされています。
今後は、制度の改善点や社会的合意の形成が求められます。プライバシー保護と職業選択の自由のバランスを保ちながら、制度を運用するための具体的な対策が必要です。