問題提起:
保育園の運営において、目標設定とその達成度を効果的に管理する方法を見つけることは、常に課題となっています。

記事を読んでわかること:
この記事では、保育園でのOKR(Objectives and Key Results)の導入方法、その基本概念とKPIやMBOとの違い、実際の導入メリットや成功事例について詳しく解説します。

記事を読むメリット:
この記事を読むことで、保育園の運営を改善し、スタッフのエンゲージメントを高め、透明性のある目標達成を実現するための具体的な方法がわかります。さらに、保育園特有のOKR設定例や導入のステップも紹介するため、実践に役立つ情報が得られます。

OKRとは何か?保育園での導入の意義

OKRの基本概念

OKRとは「Objectives and Key Results」の略で、組織の目標設定と成果の測定を行うためのフレームワークです。Objective(目標)は、組織や個人が達成したい具体的な成果を表し、Key Results(主要な結果指標)は、その目標を達成するための具体的な指標です。OKRは、目標を達成するための指針を提供し、進捗を測定する手段を提供します。

KPIやMBOとの違い

OKRとKPI(Key Performance Indicators)やMBO(Management by Objectives)との主な違いは、柔軟性と透明性にあります。KPIは主に業績の測定に焦点を当て、定量的な指標を使います。MBOは個々の目標を設定し、その達成度を評価する手法です。一方、OKRは定性的な目標と定量的な結果を組み合わせ、進捗を頻繁に確認し、必要に応じて目標を調整する柔軟なアプローチを取ります。注意していただきたい点は、これらは全くの別物ということではない点です。元々OKRはMBOの一種であり、シリコンバレー発祥の手法です。日本においてはメルカリ社がこれを使い、目標達成を飛躍的に加速させる力を持つとして、多くの企業で導入されるきっかけとなりました。

保育園でOKRを導入するメリット

保育園でOKRを導入することで、以下のメリットが期待できます。

目標達成のための統一感
OKRを使うことで、園全体が一丸となって共通の目標に向かって取り組むことができます。

エンゲージメントの向上
定期的な進捗確認とフィードバックにより、スタッフの意識が高まり、組織全体のエンゲージメントが向上します。

透明性の確保
目標と結果が明確に設定され、共有されることで、各メンバーが自分の役割と責任を理解しやすくなります。

OKRの基本構造と設定方法

Objectiveの設定

Objective(目標)の設定では、明確で具体的なものを設定します。Objectiveは組織全体のビジョンやミッションに直結し、スタッフ全員が理解しやすいものにする必要があります。例えば、「子どもたちの健全な成長を支援する」や「保護者との信頼関係を強化する」などの目標が考えられます。このようにObjective自体は定量化、つまり測定可能なものでなくて問題ありません。

Key Resultsの設定

Key Results(主要な結果指標)は、Objectiveを達成するために必要な具体的で測定可能な指標です。例えば、「毎月保護者会を開催する」、「週に1回の健康チェックを実施する」などです。これはSMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性のある、Time-bound:期限付き)を意識して設定するべきものです。つまり、定量的に測定可能で、進捗を確認しやすい指標を設定することが重要です。

OKRの効果

OKRを実践すると4つの効果が期待できると言われています。その4つがFocus(集中)、Alignment(協働)、Tracking(追跡)、Stretch(挑戦)になります。

Focus(集中)
成果を上げるために、優先順位を付けることが重要です。つまり、やる事とやらない事をしっかり分けて、やる事にコミットする事が必要になります。そのためにやらない事を外部に委託するなどの判断に役立つこともあります。

Alignment(協働)
多くの企業においてはトップダウン式の目標となりますが、OKRでは社員全員の目標を公開することで、自律的な協働を狙う事ができます。

Tracking(追跡)
目標の達成度や結果を都度把握して、活用することです。定期的なミーティングを経て、期中で軌道修正を行ったり、期末時点で時期に向けての振り返りを行う必要があります。

Stretch(挑戦)
OKRは全ての目標を完璧に達成することを目的としていません。そのため、限界に挑戦し、失敗を許容することで個々の独創性を引き出すことができます。

保育園特有のObjectiveとKey Resultsの例

以下がOKRの特徴を抑えた保育園で考えられるObjectiveとKey Resultsの一例になります。

Case1

Objective
子どもたちの学習意欲を高める

Key Results
月に1回の特別プログラムを実施する
各クラスで週に2回の読書時間を設ける
学期末に保護者へのアンケートを実施し、満足度80%以上を達成する

Case2

Objective
保護者とのコミュニケーションを強化する

Key Results
毎月のニュースレターを発行する
保護者面談を年4回実施する
保護者からのフィードバックを月次で収集し、改善策を実行する

OKR導入のステップ

ステップ1: 準備と目標の設定

まず、保育園全体のビジョンとミッション、つまり保育理念・保育目標・保育方針に基づいてObjectiveを決定します。これには、園長やリーダーシップチームが中心となり、保育園の長期的な目標と短期的な目標を設定します。

ステップ2: チームOKRの設定

次に、各クラスやグループごとにOKRを設定します。各チームのObjectiveは、全体のObjectiveと連動しつつ、チーム独自の目標を反映したものにします。例えば、乳児クラスのObjectiveは「乳児の基本的生活習慣の定着を支援する」といった具体的なものとなる必要があります。

ステップ3: 個人OKRの設定

最後に、個々の保育士やスタッフのOKRを設定します。個人のOKRは、担当するクラスや役割に応じた具体的なKey Resultsを含むもので、各メンバーが自身の目標と責任を明確に理解できるようにします。

注意点

今回はトップダウン式のステップでご紹介していますが、保育理念・保育目標・保育方針がしっかりと設定され、共有・浸透されている保育園であれば、理事長や園長の作る全体のObjectiveを待たずして、個人のOKRを設定しても問題はありません。場合によっては同時並行して個人のOKRを設定することで、独創性に富んだObjectiveが作られるかもしれません。

OKRの運用とレビュー

定期的な進捗確認と評価

OKRは四半期ごとにレビューし、進捗状況を評価します。この過程で、設定したKey Resultsがどの程度達成されているかを確認し、必要に応じて目標の調整を行います。また四半期を待たず、週次で1on1の時間を設けるなどして、進捗状況を確認する事も有用です。定期的なレビューは、目標達成に向けた取り組みを促進し、問題点を早期に発見するのに役立ちます。一方で、このレビューを人事評価と切り離す必要があります。ここではあくまでOKRのレビューとして時間を設けることを意識してください。

フィードバックと改善点の共有

評価結果に基づいて、フィードバックを提供し、改善策を提案します。このフィードバックは具体的で建設的なものであり、次の四半期に向けた改善点や新たな目標設定に役立ちます。注意点としては、Objectiveの達成がなされていないからといって、意欲を削ぐようなフィードバックは行わないようにしてください。

保育園でのOKR活用事例

実際の事例紹介

他の保育園でのOKR導入事例を紹介します。例えば、ある保育園では「子どもたちの健康管理の徹底」をObjectiveとし、「毎日の健康チェック実施率100%」をKey Resultsとして設定しました。この結果、保護者の満足度が向上し、子どもたちの健康状態も改善しました。

成功のポイントと失敗の回避策

OKRを効果的に運用するためのポイントとしては、目標設定の透明性、定期的な進捗確認、建設的なフィードバックの提供が挙げられます。また、目標が高すぎると達成が難しくなるため、避けてしまう事がありますが、OKRは目標を全て達成することが重要という事ではありません。現実的に達成可能な目標のみをたてると、独創性な目標設定というOKRの期待できる効果を半減させてしまうため、失敗を強要したチャレンジングな目標を設定することが重要です。

保育園でOKRを成功させるためのポイント

全体導入の前に一部のチームで導入をしてみる

導入に際して、いきなり組織全体で実行するのはハードルが高すぎます。まずは部門やチーム、保育園でいうとクラス単位で導入を検討するところから始めると効果を実感することができ有用です。

目標の具体化と見える化

OKRをシートやツールで管理し、全スタッフが目標と進捗を確認できるようにします。これにより、各メンバーの役割と責任が明確になり、目標達成に向けた取り組みが促進されます。悪い例として、紙やExcelで作成し、1年間塩漬けにされた結果、期末時点でも適切なフィードバックがなされない事があります。しかしこれではOKRは意味を成しません。必ず全スタッフいつでも確認できる状況を作りましょう。

継続的なコミュニケーション

定期的なチームミーティングや1on1ミーティングを実施し、進捗状況や問題点を共有します。これにより、チーム内のコミュニケーションが活性化し、協力体制が強化されます。この際、思うような進捗状況ではないObjectiveに関しては、改善案のフィードバックをする機会を設けるようにしましょう。

柔軟な目標設定と調整

市場や環境の変化に応じて目標を見直し、必要に応じて調整します。達成可能な目標のみを作る事はOKRの本質に反するものと前述していますが、高すぎて、現実とかけ離れた目標も意味を成しません。状況に応じて柔軟な対応することも大切です。

OKR導入後の効果と改善

保育園の運営改善とスタッフの成長

OKRを導入することで、保育園の運営が改善され、スタッフの成長が促進されます。具体的には、目標達成に向けた取り組みが統一され、スタッフの意識が向上し、組織全体のパフォーマンスが向上します。

継続的な改善サイクル

評価とフィードバックを通じてPDCAサイクルを実践します。これにより、常に改善を続ける文化が醸成され、保育園全体の効率と効果が向上します。

人事評価制度への活用

OKRは人事評価の一部として活用可能です。しかし、OKRの評価を人事評価に直結させるには注意が必要です。OKRでは全ての目標を完璧に達成されることを目的としていません。挑戦的な目標を立て、それに向かって活動することを良しとしています。そのため、OKRの評価をそのまま人事評価に使うと、「達成度が低い=評価が低い」と判断されてしまいがちです。そうなると、人間の心理上、必然的に達成可能なObjectiveをたてる傾向になり、本来のOKRの良さが発揮できません。必ずOKR以外の評価方法と併用する形で、利用し、参考として使うべきものとしての位置づけである事は忘れないでください。

まとめ

今回はOKRについて考えてきました。保育園でのOKR導入は、組織全体の目標設定と成果の測定において多くのメリットをもたらします。OKRは柔軟で透明性が高く、園全体が一丸となって目標達成に向けて取り組むことができます。これにより、スタッフのエンゲージメントが向上し、役割と責任が明確化されます。
保育園でOKRを成功させるためには、まず小規模なチームやクラスで導入を試みることから始めると効果的です。目標の具体化と見える化、継続的なコミュニケーション、柔軟な目標設定と調整が重要です。また、OKRは必ずしも人事評価と直結させず、挑戦的な目標設定を奨励することで、スタッフの成長と組織全体のパフォーマンス向上を図るべきです。これらを進める上で、困難な点やアドバイスを必要とする場合は我々のような専門家の活用も検討してみてください。しっかり形となったOKRは保育園の目標達成と組織全体の成長を支える強力なツールとなるでしょう。