問題提起:
保育園でのBCP(事業継続計画)策定が、2023年4月から努力義務化されました。これは自然災害や感染症などの緊急事態に備え、保育園が迅速かつ適切に対応できる体制を整えるための重要なステップです。しかし、多くの保育園がどのようにBCPを策定し、実施すればよいのか戸惑っているのが現状です。
記事を読んでわかること:
この記事では、BCPの基本的な定義とその重要性、保育園におけるBCP策定の具体的な手順とポイントについて詳しく解説します。さらに、実際に保育園が取り組むべき具体的なBCP策定方法と、その課題や解決策についても紹介します。
記事を読むメリット:
この記事を読むことで、保育園のBCP策定に必要な知識と具体的な実践方法を理解することができます。これにより、保育園の安全対策が強化され、緊急時にも子どもたちや保護者が安心できる環境を提供できるようになります。また、職員の負担を軽減する方法や保護者との連携の重要性についても学ぶことができます。
はじめに
BCP(事業継続計画)の重要性
保育園においてBCP(事業継続計画)の策定が重要視されるようになっています。BCPとは、災害や事故などの緊急事態において、業務の中断を最小限に抑え、迅速に回復するための計画です。特に、子どもたちの安全が最優先される保育園では、災害発生時においても子どもたちの安全を確保し、保育サービスを継続するための計画として予め作成することで、保護者の不安を軽減し、地域社会における信頼を維持することができます。このようにBCPの重要性は非常に高いものとなります。
BCP推進の背景
近年、日本では多くの自然災害が発生しており、その度に業務の中断や混乱が生じていました。例えば、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨、そして記憶に新しい2024年の能登半島地震では、多くの企業・施設が被害を受け、業務の継続が困難となりました。特に2011年の東日本大震災をきっかけにBCPの重要性が注目され、企業におけるリスク管理の一環として、BCPの策定が推奨されるようになりました。これを受けて、企業や公共施設におけるBCPの策定が進むようになりました。
2023年4月からの保育園におけるBCP努力義務化の背景
2023年4月から、保育園においてもBCP策定が努力義務化されました。この背景には、前述したような近年の頻発する自然災害はもちろん、コロナウィルスを始めとする感染症の流行があります。特にコロナ禍においては、急な休園対応などにより、保護者はもちろん、保育園で働く職員にとっても行動・判断に悩むような事象が多発しました。このように保育園が緊急を要する状況への対応力を高める必要性が、一段と高まった事が背景としてあります。
BCP(事業継続計画)とは何か
BCPの定義と目的
改めてBCPについて考えてみたいと思います。BCPすなわちBusiness Continuity Planとは、緊急事態発生時において業務の中断を最小限にし、早期に業務を再開するための計画です。その目的は、従業員や利用者の安全を確保し、企業や施設が持続的に業務を行うための準備を行うことです。
BCPの基本概念
BCPは、事前準備、即時対応、事後対応の三つのフェーズから成り立ちます。事前準備では、リスク評価と対策の計画が行われます。即時対応では、緊急事態発生時の具体的な対応手順が含まれ、事後対応では、被害からの復旧と改善策が含まれます。また、BCPは策定することがゴールではなく、日々変化する状況に合わせて継続的な改善が求められます。このように、BCPは企業の持続可能な成長と社会的な信頼を得るための重要な取り組みとなっています。
保育園におけるBCPの具体的な目的
保育園のBCPは、主に以下の目的を持ちます。
BCPの目的
- 子どもたちの命と安全を守ること
- 保護者や地域社会との連携を図り、業務を継続すること
- 災害発生時にも安心して子どもを預けられる環境を提供すること
特に災害時、保護者が迎えに来ることが困難な場合もあります。そのような状況下であっても、園児の命を最優先にできるようなしっかり仕組み化された計画を立てることが重要です。
災害時の業務継続の重要性
災害時、特に発生直後は保育園の特性上、業務の継続が困難な状況にあろうとも、園児の命を最優先に最低限の保育環境を整え、提供する必要があります。物資の不足やインフラの停滞など物理的な問題はもちろん、不安に駆られる園児の精神的なサポートも重要になります。このように通常の業務が困難になることが多いため、あらかじめBCPを策定し、対応手順を明確にしておくことで、迅速かつ的確な対応が可能となり、被害の拡大を防ぐことができます。
保育園でのBCP策定の手順とポイント
BCP策定手順
BCPは以下のような手順に従って作成すると効率的にかつ効果的なものが作成できます。まずは汎用性の高い、一般的な方法をご紹介します。
- 基本方針の策定
- 一般的には企業や団体が目指すもの、経営理念や基本方針(保育園では保育理念・保育目標・保育方針にあたるもの)を振り返り、BCPの目的を明確にします。一方保育園においては通常業務が困難である事を念頭に、発生時(子どもたちの安全を守る機能)と発生後(生活インフラとしての機能)の2つの側面から目的を明確化するとイメージがつきやすいでしょう。
- 重要な業務とリスクの洗い出し
- 保育園にとって最も大事な業務を特定し、災害時に優先すべき業務を「中核業務」として明らかにします。ここでは災害に限らず、事故も含めた想定されるリスクが網羅されていることが望ましいです。
- リスクに優先順位をつける
- リスクの発生頻度と深刻度を考慮し、優先順位を決定します。場合によっては発生頻度・深刻度共に低いリスクに関しては、切り捨てる必要があるかもしれません。
- 実現可能な具体策を決める
- 誰が指揮を執り、誰が行動するのか、具体的な内容を策定します。設備の崩壊など物理的な面はもちろん、保育士のメンタルへの影響など精神的なものも踏まえて、想定し得る状況に対応できる施策を策定することが重要です。
- 緊急時の対応の流れを決めておく
- 災害が発生したときにどのような流れで事業を平常状態に戻すかをイメージし、必要な対応手順や体制を決めます。
- 定期的に訓練を行い、ブラッシュアップする
- 定期的な訓練を通じて、BCPの有効性を確認し、必要に応じて計画を見直し、改善します。
具体的な策定ポイント
前述したような手順に基づきBCPの策定は行われますが、重要な事は、まず目的を明確にし、リスク評価を行うこと、そしてその結果に基づいて具体的な対応策を策定する事にあります。また保育園においては特に以下のポイントに注意しながら、計画を進めます。
発動基準の明確化
緊急事態発生時にBCPを発動する基準を明確にしておくことが重要です。例えば、地震の震度や感染症の流行状況など、一言に災害と言っても、原因によって状況は様々です。ここではそれぞれの具体的な基準を設定します。
被害予測と業務の優先順位付け
被害の予測を具体的に行い、どの業務を優先的に行うべきかを決定します。保育園では、子どもたちの安全確保と保護者への連絡が最優先となります。
人員確保と連絡手段の確保
緊急時に必要な人員を確保し、連絡手段を確立しておくことが重要です。特に、保育士や職員の安否確認と迅速な連絡体制が求められます。
使えるBCPにするために
避難訓練や防災教育
具体的なBCPの実践例として、定期的な避難訓練や防災教育を行うことが挙げられます。綿密なBCPがあっても、全く使えないような絵に描いた餅では意味がありません。本当に実行性がある計画であるのかを確かめること、そして職員や子どもたちが緊急時の対応に慣れておくためにも、定期的な訓練や教育は重要になります。またBCPは一度策定したら終わりではなく、計画を見直すことも必要です。これにより、常に最新の状態を保つことができます。
含めるべき内容
具体的なBCPプランには、地震や火災、台風などの各災害に対する対応策が含まれます。例えば、地震時には建物内の安全な場所に避難し、保護者へ連絡する手順を定めます。震災の場合、被害の状況によっては保護者が会社での待機命令のため、迎えに来れないなど不測の事態が生じる可能性もあります。そのような状況に備えた対応策を考えることも重要です。
保護者の理解と協力の確保
BCP策定において、保護者の理解と協力を得ることが重要です。保護者に対してBCPの目的や具体的な対応策を説明し、協力をお願いすることで、計画の実効性が高まります。また保護者に対して定期的に情報提供を行うことで、緊急時の対応がスムーズに行われます。例えば、連絡手段や緊急時の迎えのルールについてスタッフのみで共有するのではなく、保護者にも周知徹底することが重要です。
BCP策定の課題と対策
ここまでBCPの重要性や作成手順・緊急時に実行可能性を高める方法などを解説しましたが、作成には職員の負担が増えることはもちろん、適切なアドバイスがないとリスクの識別や実行計画の立案が難しいことなど問題点があるのも事実です。
緊急性が乏しく、策定が後回しにされる
先延ばし症候群ともいえるこの問題は、日々の業務が忙しい保育業界にとっては仕方ない事かもしれません。確かに緊急性はないものですが、このような重要な課題を先送りにしてしまうことで、いざという時のリスクに備える事が困難になります。これを防ぐためには、期間を含めた具体的な目標を設定し、計画的に取り組むことが重要です。BCPの策定や見直しにしても、それに基づいた避難訓練や防災教育にしても、計画的に実行する事が重要です。
職員の負担軽減とアウトソーシング
BCP策定の負担を軽減するために、専門家へのアウトソーシングを検討することが有効です。これにより、職員の負担を軽減し、より効果的な計画を策定することが可能です。策定に慣れていない職員の時間を浪費するより、リスクの識別や実行計画など専門知識を有する専門家に依頼することで、効果の高い計画を効率的に作成することができるようになります。
まとめ
保育園におけるBCP(事業継続計画)策定は、子どもたちの安全を守り、保護者の安心を確保するために欠かせない取り組みです。BCPの策定は、緊急時の迅速かつ的確な対応を可能にし、災害や事故の影響を最小限に抑えるための重要な手段となります。保育園がBCPを導入することで、地域社会全体の防災力が向上し、緊急時にも安心して子どもを預けられる環境が整います。
BCPは一度策定すれば終わりではなく、継続的に見直しと改善を行うことが求められます。定期的な訓練や見直しを通じて、計画の実効性を常に高めていくことが重要です。また、職員や保護者への教育・啓発活動を通じて、BCPの重要性を再認識させることも必要です。
今後も自然災害や感染症のリスクはいつ発生するか分からないものです。BCPの重要性はますます高まるでしょう。また法制度の変更に伴い、新たな要件やガイドラインが示されることが予想されます。保育園ではこれに対応するため、常に最新の情報を取り入れ、柔軟に計画を更新していく必要があります。
弊社は保育士・栄養士の業務負担軽減を目指したBPOサービスを提供しています。
BPOサービスの利用により、保育園のスタッフは本来やるべき業務に、より一層貴重な時間を割く事ができるようになります。
また今回紹介したBCPの策定代行はもちろん、DX化にも強みを持ち、保育園の単なるシステム化ではない、仕組みづくりをお手伝いします。人材不足、業務効率化ができない、年々コスト増に困っているなど、保育園経営にお悩みの方は是非一度、弊社にご相談下さい!