近年、保育園におけるICTツールの導入は、保育業務の効率化や保育士の負担軽減を目的に注目を集めています。しかし、適切なツールを選び、導入を成功させるには慎重な計画と準備が必要です。この記事では、ICTツールの基本的な利点から導入ステップ、選定ポイント、導入事例、導入後の効果測定までを詳しく解説します。

保育園におけるICTツール導入の現状と課題

保育園での現状

保育園の多くでは、依然として手作業による業務が中心です。登園・降園の記録や保護者への連絡帳、給与計算などの作業は紙ベースで行われることが多く、保育士や管理者の負担が増加しています。ICTツールを導入することでこれらの作業を効率化する動きはありますが、全体として導入率はまだ低いと言えます。その背景には、導入コストや現場スタッフのITスキル不足といった課題があります。

一方で、ICTツール導入に成功している保育園も増加傾向にあります。これらの園では、保育業務の効率化だけでなく、保護者との連携強化や情報共有のスムーズ化といったメリットを享受しています。しかし、成功例がある一方で、試験的な導入が進まなかったり、現場スタッフの反発を招いたケースも見られるため、現状を正確に把握し、適切な計画を立てることが重要です。

多くの施設が抱える課題

ICTツール導入における主な課題として、以下のポイントが挙げられます。

コストの問題

ICTツールの導入には、初期費用や運用費用がかかります。特に小規模園では、限られた予算の中での判断が必要です。また、導入後のサポート費用も計画に含める必要があります。

使いこなしの難しさ

ICTツールを使用するためには、職員がそれを正しく理解し、操作できるようになる必要があります。特にITに不慣れな職員にとっては、抵抗感が強くなる場合もあります。

選定の難しさ

自園に最適なツールを選ぶには、さまざまな製品を比較し、必要な機能を見極める必要があります。選定に時間がかかるため、適切なサポートを受けながら進めることが推奨されます。

これらの課題を解決するためには、現場の声を反映させながら、試験導入を含めた慎重な計画を立て、一時点だけのコスト増を見るのではなく、長期的な収支の計算を試算する事が重要です。また選定や導入・教育といった専門知識を要する内容に関しては、外部専門家への協力を求めることも有効です。

ICTツールが保育園にもたらすメリット

業務効率化

ICTツールの導入によって、手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な効率化が期待できます。具体的なメリットには以下のようなものが考えられます。

ペーパレス化と業務の簡素化

例えば保護者が専用アプリを使って登園・降園時間を記録する仕組みを導入することで、紙ベースの記録が不要になります。この結果、保育士が記録作業に費やす時間が削減されます。

事務作業の効率化

勤怠管理や給与計算が自動化されるツールを使用することで、管理者の事務作業の負担が軽減されます。

職員の負担軽減と属人化の回避

ICTツールは保育士の事務作業負担を軽減し、本来の保育業務に集中できる環境を作り出します。これにより、職員の働きやすさが向上し、離職率の低下にもつながります。また、ツールを活用することで、職員間の情報共有がスムーズになり、チームとしての効率性も向上します。

さらにシステムの導入により、誰か一人に属人化するような事務的業務を回避することができ、急な休職や万が一の退職のリスクに備えることもできます。

保護者との関係強化

保護者向けの機能が充実したICTツールでは、子どもの日々の活動状況や写真を共有することが可能です。これにより、保護者は園での子どもの様子をリアルタイムで把握でき、園への信頼感が向上します。また、保護者からのフィードバックを効率よく収集する機能があるツールもあり、保護者とのコミュニケーションがさらに強化されます。

保育園で導入が考えられる具体的なICTツールとその活用方法

ここでは、保育園で導入が考えられるICTツールをいくつか詳しく紹介し、それぞれのメリットや具体的な活用方法について解説します。

登園・降園管理ツール

概要:
登園・降園時間をデジタルで記録できるツールです。保護者はスマートフォンアプリを使い、子どもの到着やお迎え時間を入力したり、事前連絡を行うことができます。

具体的な活用例:

  • 保護者がアプリを使ってお迎え予定時間を通知。
  • 保育士が端末を利用して実際の登園時間を記録。
  • 延長保育の利用時間を正確に把握し、後日請求書を作成。

メリット:

  • 保護者との連絡がスムーズになる。
  • 手書き記録の省略により、職員の負担軽減。
  • データが自動保存されるため、管理が簡単。

導入事例:
コドモンやKinderPassなどのサービスでは、登園記録と連動して請求書作成や園児の出席状況管理が可能です。

保護者連絡アプリ

概要:
園と保護者のコミュニケーションをサポートするアプリです。従来の紙の連絡帳やメールに代わり、アプリを通じてお知らせや緊急連絡ができます。

具体的な活用例:

  • 園のイベントやお知らせをアプリで一斉送信。
  • 毎日の保育状況(食事内容、睡眠時間、体温など)をリアルタイムで共有。
  • 緊急時の一斉連絡(災害や感染症発生時)。

メリット:

  • 保護者がいつでもスマホで園の状況を確認可能。
  • 紙の連絡帳や手書き作業が不要になり、環境負荷も軽減。
  • 保育士と保護者間でのミスコミュニケーションを減らせる。

導入事例:
mierun(みえるん)やComiru、スマート保育園は、親しみやすいUIと柔軟なカスタマイズ機能が特徴です。

勤怠管理システム

概要:
職員の出勤・退勤を記録するシステムで、給与計算と連動させることも可能です。園児や保護者とのコミュニケーションツールだけではなく、こうした職員向けのICTツールを導入することも有用です。

具体的な活用例:

  • タイムカードの代わりにスマホアプリやタブレットで勤怠を記録。
  • シフト管理機能を活用し、職員間の勤務スケジュールを調整。
  • 勤務時間データを基に自動で給与を計算。

メリット:

  • 出勤記録や残業時間が正確に把握できる。
  • 給与計算のミスを防ぎ、作業時間を大幅に短縮。
  • 職員ごとの勤務状況をリアルタイムで確認可能。

導入事例:
KING OF TIMEやジョブカン勤怠管理が多くの施設で導入されています。

業務管理システム

概要:
園全体の業務を効率化するためのツールです。保育計画の作成や行事予定の管理、職員間のタスク共有をサポートします。

具体的な活用例:

  • 行事予定をカレンダーに入力し、職員全員がリアルタイムで共有。
  • 保育計画をデジタル化し、更新内容を自動で通知。
  • 職員間でタスクを割り振り、進捗状況を一元管理。

メリット:

  • 情報共有のスピードアップと正確性向上。
  • タスクの漏れや重複を防ぎ、業務効率を改善。
  • 園全体の運営状況を簡単に把握可能。

導入事例:
HoikuCloudやGoogleWorkspace、Asanaなど、保育専用のシステムから一般業務管理ツールまで選択肢が広がっています。

GoogleWorkspaceの活用に関しては以下の記事もご参照ください。

学習・保育記録ツール

概要:
子どもの成長や日々の活動を記録し、保護者と共有するツールです。

具体的な活用例:

  • 毎日の活動内容を写真付きで記録し、保護者に共有。
  • 成長過程をグラフ化して視覚的に把握。
  • 特定の子どもに対する支援計画を職員間で共有。

メリット:

  • 子どもの成長を詳細に記録でき、保護者の満足度向上。
  • 保育士の手書き作業を削減。
  • データを基に個別対応の質を高めることが可能。

導入事例:
HugnoteやChildcareDiaryは、保育園専用に設計されたサービスです。

帳票作成・管理ツール

概要:
各種帳票をテンプレート化し、自動作成やデジタル管理を行うツールです。

具体的な活用例:

  • 行事報告書や保育計画書の自動作成。
  • デジタルでの保存・検索機能により迅速な帳票管理。
  • 法令遵守のための提出書類をテンプレート化。

メリット:

  • 書類作成時間を大幅に削減。
  • 紛失リスクを減らし、必要な書類を迅速に検索可能。
  • 業務の標準化と効率化。

導入事例:
freee会計やExcelテンプレートを活用する園が増えています。

セキュリティ関連ツール

概要:
データや個人情報を保護するためのツールです。

具体的な活用例:

  • データを暗号化して保存。
  • 職員ごとに異なるアクセス権限を設定。
  • 定期的なバックアップを自動で実行。

メリット:

  • 個人情報保護法やGDPRなどの法令遵守をサポート。
  • サイバー攻撃のリスクを低減。
  • 万が一のデータ消失時にも迅速な復旧が可能。

導入事例:
Microsoft 365やGoogle Workspaceは、セキュリティ機能が充実しており、多くの施設で活用されています。

オンライン研修・教育ツール

概要:
職員のスキルアップや研修をオンラインで実施するためのプラットフォームです。

具体的な活用例:

  • 新任職員向けの研修をオンデマンドで提供。
  • 外部講師を招いたオンラインセミナーを開催。
  • 職員が自分のペースで学習できるeラーニングコース。

メリット:

  • 研修コストの削減。
  • 職員の知識やスキルを効率的に向上。
  • 地域を問わず外部の専門家の知見を活用可能。

導入事例:
UdemyやZoomなど、オンライン学習プラットフォームが活用されています。

ICTツール導入におけるポイントと注意点

費用対効果を見極める

ICTツール導入に際しては、初期費用や運用費用に見合う効果が得られるかを慎重に検討する必要があります。例えば、業務効率が向上して人件費が削減される場合や、保護者満足度が向上して入園希望者が増えるといった具体的な成果が見込まれる場合には、導入が費用対効果に優れていると言えます。一方で、高機能であっても実際の業務に活用できない機能が多いツールは避けるべきです。

サポート体制をどうするか

ICTツールの導入は当然、自園で全てやる方がコストを抑えることができます。一方で保育園においては、スタッフのIT知識が乏しい場合も多いため、簡単と聞いていた設定でも思ったように進まず、最悪の場合は運用開始に至らなかったというケースもあります。そのためICT導入においてはサポートを利用することをオススメします。導入という点においてはメーカーの導入サポートが一番かと思いますが、ツールの選定段階からサポートを受けたいという場合は、メーカーとは違いフラットな立場でサポートをする、弊社のようなサービスを受けることも一つです。

スタッフと保護者への教育

新しいツールを導入する際、現場のスタッフや保護者がその使い方を習得するまでには一定の時間がかかります。特にITに不慣れなスタッフが多い場合、十分なトレーニング期間とフォローアップ体制を設けることが重要です。また、保護者への説明会やマニュアル配布などを通じて、ツールの利便性を丁寧に伝える工夫が求められます。

情報セキュリティへの配慮

保育園では、子どもや保護者の個人情報を扱う機会が多いため、情報セキュリティには万全の対策が必要です。ICTツールを選定する際には、データの暗号化やアクセス制限機能が備わっていることを確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを仰ぐことが推奨されます。また、職員全員がセキュリティ意識を持つよう教育を徹底することも重要です。

ICTツール導入のステップ

ではここからICT導入の具体的なステップを見ていきましょう。

ステップ1: 自園の課題と目標を明確にする
ICTツール導入を成功させるためには、まず自園の現状と課題を正確に把握し、解決すべき問題や目標を明確にする必要があります。例えば、以下のような視点で課題を整理します。

・業務効率を向上させたい業務は何か?
・保護者とのコミュニケーションで改善が必要な点は?
・コスト削減が期待できる業務はどこか?

このように課題を具体化することで、必要な機能を持つICTツールを的確に選ぶことが可能になります。またこの段階で、導入にあたりサポートを受ける必要性があるかの判断、必要がある場合メーカーサポートで十分か、ツールの選定を含めた総合的なコンサルティングサービスを受ける必要があるかを検討すると良いでしょう。
ステップ2: 市場調査とツール選定
次に、課題を解決できるICTツールを探します。市場には多種多様なツールが存在するため、以下の観点を基準に選定を進めると良いでしょう。

・操作性が直感的であること
・自園の規模や予算に合っていること
・導入後のサポート体制が充実していること

また、無料トライアルやデモ版を活用して、実際の使用感を確かめることをお勧めします。導入前にツールの操作性や機能を十分に確認することで、ミスマッチを防ぐことができます。
ステップ3: 導入計画の策定
ツールを選定した後は、スムーズな導入を実現するための計画を立てます。特に重要なのは、以下の点です。

導入スケジュールを明確にする
導入開始から本格運用までの段階を設定し、スタッフ全員が進捗を共有できるようにします。
トレーニング計画の実施
現場スタッフがツールを使いこなせるよう、十分なトレーニングを提供します。
保護者への説明会開催
ツールの利便性や利用方法を保護者に説明し、円滑な運用をサポートします。
ポイント

このように計画段階で十分な準備を行うことで、導入後のトラブルを最小限に抑えることができます。運用に当たっては、計画通り進行できれば問題はありませんが、思う様に進まない場合はサポートに協力を得ることが重要です。

ICTツール導入事例

ケース1: 中規模保育園での業務効率化

東京都内の中規模保育園Aでは、登園・降園の記録や給与計算が紙ベースで行われており、管理者や保育士にとって大きな負担となっていました。そこで、業務管理専用のICTツールを導入したところ、以下の成果を得ることができました。

出欠記録の効率化:
保護者がスマートフォンで登園・降園を記録するシステムを導入し、保育士の手作業を大幅に削減。結果として、記録ミスも減少しました。

給与計算の自動化:
勤怠データがリアルタイムでツールに反映される仕組みにより、給与計算にかかる時間が半減。管理者はより重要な業務に集中できるようになりました。

この保育園では、導入後3か月で職員の作業時間が平均20%削減され、保護者からも「手続きが簡単になった」との高評価を得ています。

ケース2: 小規模園での保護者連携強化

地方都市にある小規模保育園Bでは、保護者とのコミュニケーション強化を目的に、日々の活動報告や緊急連絡が可能なツールを導入しました。この結果、以下のような効果がありました。

リアルタイムでの情報共有:
写真付きで日々の活動内容を保護者に報告することで、家庭での会話が増え、保護者の満足度が向上しました。

緊急時の連絡効率化:
緊急連絡を一斉送信できる仕組みにより、災害や急病時の対応が迅速になりました。

このツール導入により、保護者アンケートの満足度が約30%向上したとの結果が出ています。

ICTツール導入後の効果測定と改善方法

効果測定の重要性

ICTツールを導入しただけでは、その効果を十分に引き出せないことがあります。導入後の運用状況を定期的にモニタリングし、成果を測定することが重要です。以下の観点で効果を評価しましょう。

業務効率の改善状況:
手作業にかかる時間がどれだけ削減されたかを具体的に計測します。

職員の満足度:
ICTツールに関する職員アンケートを実施し、現場での使い勝手や改善点を把握します。

保護者の反応:
保護者アンケートやフィードバックを収集し、ツールの利便性に対する満足度を評価します。

改善方法

効果測定を踏まえ、以下のような改善を継続的に行うことが推奨されます。

機能の追加や見直し:
実際の運用で不足している機能があれば、ツールのアップグレードや追加機能の導入を検討します。

スタッフのフォローアップ:
操作に不慣れなスタッフへの追加トレーニングや、定期的な勉強会を開催します。

保護者との連携強化:
保護者からの意見をもとに、ツールの利用方法や共有内容を見直します。

効果測定と改善を繰り返すことで、ICTツール導入の効果を最大化し、保育園全体の業務効率と満足度を向上させることができます。

属人化しないICTツールの利用でやるべきことができる職場を

ICTツールの導入は、保育園の業務効率化や保育士の負担軽減に大きく寄与します。しかし、適切な計画と準備がなければ、期待通りの成果を得ることは難しいです。現状と課題を正確に把握し、目的に合ったツールを選定した上で、導入後の効果測定と改善を繰り返すことで、導入効果を最大限に活かすことができます。

この記事を参考に、ICTツールの導入を成功させ、より良い保育環境の構築を目指しましょう。もし具体的なツール選定や導入支援が必要であれば、ぜひお問い合わせください。


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