問題提起:
現在、保育士の資格を持ちながら現場で働いていない「潜在保育士」が増加しています。彼らが復職しない理由には、給与の低さや長時間労働、復職への不安、家庭や育児との両立の難しさなどが挙げられます。この現状は、保育士不足をさらに深刻化させ、保育の質にも影響を与えています。
記事を読んでわかること:
本記事では、潜在保育士の現状や彼らが復職しない理由を明らかにし、政府や自治体が提供する支援制度や復職支援策について詳しく解説します。また、潜在保育士が新しい働き方を見つける方法や、復職に成功の鍵を紹介します。
記事を読むメリット:
この記事を読むことで、潜在保育士としてのキャリアを再考するための具体的な情報や、実際に活用できる支援制度について理解することができます。さらに、復職に向けた不安を軽減し、より前向きにキャリアを再スタートさせるためのヒントを得ることができます。
潜在保育士とは?
潜在保育士とは、保育士の資格を持ちながらも現在保育の仕事に従事していない人々を指します。このような潜在保育士は全国で多数存在し、厚生労働省の「令和4年版厚生労働白書」によると令和2年10月1日時点において、保育士の登録者数は約167.3万人、一方で、従事者は約64.5万人、残りの約102.8万人が潜在保育士であると言われています。このように、現職の保育士以上に潜在保育士の数が多いのが現状です。多くの潜在保育士は、一度保育の現場から離れた後、さまざまな理由で再就職に踏み切れずにいます。
ちなみに潜在保育士には、保育園などでの勤務経験がない人と、勤務経験があり現在は保育現場から離れている人の2つのタイプがありますが今回は経験のある方を中心に見ていきたいと思います。
保育園での就業経験のない保育士に関しての記事はこちらから
潜在保育士の現状と課題
潜在保育士が抱える問題は多岐にわたります。給与の低さや長時間労働、復職への不安やブランク、家庭や育児との両立の難しさなどが主な要因と言われています。これらの問題は、保育士の仕事を魅力的に感じさせないだけでなく、現場復帰をためらわせる要因にもなっています。
子どもが好き、社会貢献をしたいなどの理由で保育士を目指し、一度は働いたものの、上述したような要因で保育士としてのキャリアを諦める人が多いこの状況が、今の保育士の人材不足の原因となっています。政府や自治体は、これらの課題に対応するためのさまざまな支援策を講じていますが、まだ多くの潜在保育士が現場に戻ることができていません。
潜在保育士が復職しない理由
給与の低さ
多くの潜在保育士が復職をためらう理由の一つに、給与の低さがあります。保育士の給与は他の職種に比べて低いと感じる人が多く、そのために生計を立てるのが難しいと感じることがあります。特に、子どもの安心・安全を守りつつ、成長をサポートするという専門性が高く、責任が重い仕事でありながら、その労働に見合った報酬が得られないことに不満を抱く保育士は少なくありません。
長時間労働と責任の重さ
保育士の仕事は長時間労働が常態化しており、その上、子どもの命を預かる責任が伴います。また職務上、体を使う事も多く要求されます。このような厳しい労働条件が、潜在保育士の復職を妨げる一因となっています。長時間の勤務が家庭生活に与える影響も大きく、特に子育て中の保育士にとっては大きな負担となります。
復職への不安とブランク
長期間現場を離れていると、復職に対する不安が増します。最新の保育方法や規則の変化に追いつけるか、同僚との関係がうまくいくかなど、さまざまな不安が復職を妨げます。新しい知識や技術を取り入れつつ、人間関係が閉鎖的になりがちな保育園での復職は、精神的にも負担がかかり、ブランク期間が長いほど、その不安は大きくなります。
家庭や育児との両立の難しさ
家庭や育児との両立が難しいという問題もあります。特に小さな子どもを抱える保育士にとって、自身の子どもを預けてまで長時間働くことは大きな負担です。保育士も子の親である以上、自身の子どもに時間を使ってあげたいと考える方も当然たくさんいます。このため、多くの潜在保育士が家庭優先の生活を選び、現場復帰をためらっています。
復職に対する支援制度
前述したように復職に至らない理由は様々ありますが、潜在保育士に稼働してもらう事で、保育士の人材不足問題の一番の解決策になる事は確かです。そのため、政府や自治体単位で、さまざまな取り組みが行われています。
厚生労働省の準備金貸付制度
厚生労働省は、潜在保育士が再就職する際の費用を補助するために、準備金の貸付制度を設けています。この制度では、一定の条件を満たすことで貸付金が返還免除となる場合もあります。
自治体ごとの支援制度
各自治体も独自の支援制度を提供しています。
東京都杉並区
直近3年間で保育士として働いていない潜在保育士に対し、5万円の商品券を配布し、就職相談会や面接会を開催しています。
静岡県
保育所に再就職する際に必要な費用を最大40万円まで無利子で貸し付け、保育料の半額(最大月額27,000円)を補助する制度があります。
兵庫県明石市
保育所に再就職する際に最大40万円までの費用を無利子で貸し付ける制度を設けています。
子どもの預かり支援制度
潜在保育士が復職しやすくするために、子どもの預かり支援制度も提供されています。
東京都
未就学児を持つ保育士がベビーシッターを利用する際、利用料金の半額を貸し付ける制度があります。
埼玉県
保育料の半額(最大月額27,000円)を補助する制度があります。
復職に向けたサポートと研修
保育士・保育所支援センターの役割
各都道府県の保育士・保育所支援センターでは、保育士の復職支援を行っています。これらのセンターでは、求人情報の提供や就職相談、再就職に向けたサポートを無料で行っています。
再就職支援研修
再就職を希望する潜在保育士に対して、実技や安全管理の研修を提供しています。これにより、最新の保育知識や技術を学び直し、不安を軽減することができます。また、保育所見学や就職相談会を通じて、現場の雰囲気を感じることができる機会も提供されています。
保育園によるさまざまな雇用形態による採用と研修の実施
保育園側の工夫によっても潜在保育士の活躍の場を作ることができます。例えば時短勤務やフレックスタイムの導入やパートタイムでの雇用もその一つです。フレキシブルな働き方ができることで、保育士としての復帰の機会を提供することが可能になります。社内研修を充実させたり、外部講師を招いての講習を実施するなどして、新しい知識習得の機会を作り、積極的に参加させるのも有用であると考えられます。
保育士資格を活かした新しい働き方
日本が抱える、現状の保育士の人材不足という観点で考えると、潜在保育士の保育園での復職は最も望まれることに違いはありません。また2025年3月までが期限となりますが、「幼保特例制度」1を利用して、幼稚園教諭とのダブルライセンスを取得して、更なるキャリアアップを目指すのも良いと思います。一方で、保育士の資格を活かしたその他の働き方も考えられるかもしれません。
- 「幼保特例制度」については以下の記事をご参照ください。 ↩︎
ベビーシッターという選択肢
保育士資格を活かして、保育園以外で働く方法としてベビーシッターがあります。ベビーシッターは、依頼者の自宅や指定の場所で子どもを預かる仕事で、個別保育を行うため、子どもの成長を間近で見守ることができます。また働ける日時を予め設定したりできるため、フレキシブルな働き方が可能となります。
ベビーシッターの仕事内容と特徴
ベビーシッターは、保育園での集団保育とは異なり、個別に対応できるため、子どもの成長に合わせた保育が可能です。また、すきま時間を利用して働けるため、家庭や育児との両立がしやすい点も魅力です。一方で、生活の基盤とする仕事という点で考えると、保育園などの組織に所属する従業員ではないため、給与面での安定性や福利厚生には欠けることがある点は注意が必要です。
まとめ
今回は潜在保育士について、考えてきました。潜在保育士の復職は、保育の質を向上させるだけでなく、保育士不足の解消にもつながります。彼らの復職は、子どもたちの成長と発達に大きく貢献する重要な役割を果たします。そんな潜在保育士の復職を促進するためには、待遇面、特に給与改善や労働環境の整備が必要です。また、復職支援制度の充実と周知も重要です。今後、さらに多くの潜在保育士が現場に戻り、保育の現場を支えるための取り組みが期待されます。