問題提起:
保育士の給与や労働環境の改善が社会的に求められていますが、具体的にどのように改善されているのでしょうか?特に、「処遇改善等加算」による保育士の給与アップはどれほどの効果があるのでしょうか?

記事を読んでわかること:
本記事では、「処遇改善等加算」とは何か、その重要性、具体的な加算内容と支給方法について詳しく解説します。さらに、2024年度の最新情報として、加算制度の改正点や申請方法についても取り上げます。

記事を読むメリット:
この記事を読むことで、保育士の方々は処遇改善等加算の仕組みと具体的な給与アップの効果を理解でき、キャリアアップに役立てることができます。また、保育施設の運営者にとっては、制度を活用して職員の離職率を低下させ、質の高い保育サービスを提供するための知識が得られます。

はじめに

概要と重要性

「処遇改善等加算」とは、保育士の給与や待遇を改善するために設けられた補助金制度です。保育士の労働環境を改善し、質の高い保育サービスの提供を促進することを目的としています。この制度は、保育士にとっての経済的なメリットだけでなく、職場環境の改善やキャリアアップの支援も含まれています。

処遇改善等加算の重要性

保育士は、子どもたちの成長に欠かせない重要な役割を担っています。しかし、その労働環境や給与は十分とは言えない状況が続いていました。処遇改善等加算は、こうした問題を解決し、保育士の職場環境を向上させるための重要な施策です。この制度により、保育士の離職率が低下し、安定的な保育サービスの提供が可能になります。

処遇改善等加算の概要

制度の目的と背景

処遇改善等加算は、政府が保育士の賃金改善とキャリアアップを目的とした補助金制度です。この制度は、保育士の賃金水準の向上やキャリアアップの支援を通じて、職員が定着すること、そして保育の質を高めることが期待されています。2013年から始まり、2017年に新たな処遇改善加算Ⅱが追加されました。

制度の導入目的

処遇改善等加算は、少子高齢化や共働き家庭の増加により、保育ニーズが高まる一方で、保育士の不足が深刻化している現状に対応するために導入されました。これにより、保育士の労働条件を改善し、長期的なキャリア形成を支援することが目指されています。保育士の給与改善に加えて、職場環境の整備やキャリアパスの構築も重要な要素として含まれています。

処遇改善等加算の種類

加算Ⅰ

特徴:
加算Ⅰは、保育の提供に携わる人材の確保及び資質の向上を図り、質の高い保育を安定的に供給していくために、 「長く働くことができる」職場を構築するという趣旨の下設定されてました。基本的な給与の改善を目的としており、保育士全体に対する支援です。保育士の平均勤続年数に基づいて加算率が決定され、給与に直接上乗せされます。

対象者:
全ての保育士が対象となります。

支給方法:
加算Ⅰは、施設の平均勤続年数を基に加算率が決定され、賃金に2~12%上乗せされます。具体的には、全職員の勤続年数を合算し、対象となる職員数で割った値が施設の平均勤続年数となります。その他の条件として

  • 加算による賃金改善の対象項目以外の賃金項目についても、賃金水準を低下させてはならないこと。つまり他の賃金項目を下げて従前の給与と同水準にするなどの処置は行ってはいけない
  • 処遇改善等加算は、通常のベースアップなどの定期昇給とは別の上乗せとして賃金改善を行うこと
  • 賃金改善の対象となる賃金項目は、手当や一時金ではなく、基本給とすることが望ましい

などがあげられています。

加算Ⅱ

特徴:
加算Ⅱは、保育士のキャリアアップを支援するために設けられた加算です。今まで園長や主任保育士といった限られた役職しか存在しなかった保育園において、定着率の増加とキャリアアップの機会を与えることが目的となっています。専門性を高めるための研修を修了し、特定の役職に就任した保育士を対象に、補助金が支給されます。

対象者:
一定のキャリアアップ研修を修了し、役職に就いている保育士が対象となります。例えば、副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダーなどが対象です。

支給方法:
研修修了やキャリアアップに基づき、月額5千円~4万円が加算されます。具体的には、以下の条件を満たす場合に加算されます。

  • 副主任保育士: 経験年数概ね7年以上、職務分野別リーダーを経験し、マネジメント研修と専門研修を3つ以上を修了すること。4万円が加算される。
  • 専門リーダー: 経験年数概ね7年以上、職務分野別リーダーを経験し、4分野以上の専門研修を修了すること。4万円が加算される。
  • 職務分野別リーダー: 経験年数概ね3年以上、担当分野の研修を修了すること。5千円が加算される。

加算Ⅲ

特徴:
加算Ⅲは、職員の賃金の継続的な引上げ(ベースアップ)等に要する費用を対象としています。具体的には、保育士や幼稚園教諭等を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置が実施されています

対象者:
保育所や幼稚園等に勤務する職員
(施設が独自に加配している職員も含めて一定の賃金改善が可能となるよう、 実際の賃金改善に当たっては施設の判断で柔軟な配分が可能)

要件:
受給にあたり、以下の要件を満たす必要があります。

  • 加算額以上の賃金改善を行うこと
  • 賃金改善のうち最低でも2/3以上は基本給・決まって毎月支払われる手当によること。
  • 賃金改善計画書及び賃金改善実績報告書を提出すること。

2024年度の変更点

最新の改正点

令和6年の改正では、それぞれ個別として設定されていた処遇改善等加算が一本化の検討と事務手続きの簡素化がなされます。これにより、計画書と報告書で同様の情報(賃金額等)を記載するなどの事務負担が軽減され、導入に踏み切れなかった施設も導入を進めることができ、保育士の待遇がさらに向上することが期待されています。

加算の一本化の検討とその影響

これまでの複数の加算が一本化され、よりシンプルな制度とすることが検討されています。さまざまな角度から保育士の賃金向上に対する対策を講じることは評価が高かったものの、複数の異なる加算制度や加算を取得するための仕組み(手続き)に対しては、施設や地方公共団体等から、「制度が複雑でわかりにくく、事務作業も煩雑で、多大な事務負担が発生している」という指摘があったためです。これにより、施設運営者が加算の取得や管理をしやすくなり、保育士への支給もスムーズになります。

処遇改善加算Ⅰの計算方法

勤続年数に基づく加算率の計算方法

勤続年数の平均に基づき、賃金に対する加算率を算出します。例えば、勤続年数が11年以上の場合、一律で6%の加算率が適用されます。

具体例:
施設の全職員の勤続年数を合計し、対象となる職員数で割った値が施設の平均勤続年数となります。この平均勤続年数に基づいて、賃金に2~12%の加算が行われます。

賃金改善要件分とキャリアアップ要件分の計算方法

賃金改善要件分:
賃金改善の取り組みが適切に行われている場合に加算が適用されます。例えば、平均継続年数が11年未満の場合、一律5%の加算が行われます​。

キャリアアップ要件分:
職員がキャリアアップの要件を満たした場合に加算が行われます。役職や勤務条件、研修の実施などが含まれます。条件が満たされない場合、賃金改善要件分から2%の加算率が減ります​。

こども家庭庁「公定価格の処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲ の一本化について」より

保育施設における実例と効果

成功事例とその効果

処遇改善等加算を導入した保育施設の具体例を紹介します。例えば、ある保育施設では、加算を利用して保育士の給与を引き上げ、離職率を低下させることに成功しました。この施設では、職員のモチベーションが向上し、保育の質も向上しました。
別の事例では、処遇改善等加算を利用して研修を実施し、職員のスキル向上を図った結果、保育の質が飛躍的に向上したケースもあります。

導入後の効果や保育士の声

加算の導入により、保育士の給与が向上し、職場環境も改善されました。また、保育士からは「給与が上がったことでモチベーションが向上した」との声が寄せられています。さらに、キャリアアップ研修の実施により、職員のスキルや専門性が向上し、保育の質の向上にも寄与しています。

まとめ

処遇改善等加算は、保育士の給与や待遇を改善し、保育の質を高めるための重要な制度です。この制度を理解し、適切に活用することで、保育士の職場環境を大きく改善することができます。施設経営者はこの制度を活用して、より良い労働環境を築いていただきたいと思います。
処遇改善等加算は、今後もさらに改善される可能性があります。保育士の方々も、引き続き制度の動向を注視し、自身のキャリアアップに役立てていただきたいです。また、施設運営者もこの制度を最大限に活用し、保育士の確保と質の向上に努めて、選ばれる保育園を経営していただければと思います。